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夏休み-08 [シトワイヤン-18]

今日は算数倶楽部の日です。

「正一君、私が参加して問題ないの?」
「うん、算数倶楽部は自由参加なんだ。
そう言えば、真紀ちゃんは、夏休みの宿題、どうなの?」
「一応前の学校で出されたのを、鹿丘の先生に見せなさいって言われてて、済ませて有るわ。
どさくさに紛れてやらない選択肢も有ったけど、大した量じゃないし先生には真面目な子だと思われといた方が良いでしょ。」
「ふ~ん、で、真紀ちゃんは真面目なの?」
「悪い子ではないかな。」
「はは、悪い子なんていないよ。」
「そうなの?」
「例えば低学年の子が問題を起こしたとするでしょ、鹿丘小の高学年は、その子に悪い子というレッテルを貼るのではなく、なぜ問題を起こしたかを考えるんだ。」
「うわっ、大人の対応なのね。」
「大人より僕らの方がその子の事を知ってたりするから、大人が気付いていない、その子なりの理由が分かることも有るのさ。」
「頭ごなしに叱るより格好良い、ということなのね。」
「うん、だから親の言う事を聞けない子でも、僕らの言う事は素直に聞けたりするんだ。」
「そうか、みんな良い子ばかりだと思っていたけど、正一君達がそうしてたのね。
あっ、みんな来てる、今日は何時からだっけ?」
「時間は決まってないんだ、もう始めている子がいるし、午後からの子もいるんじゃないのかな。」
「ねえ、夏休みに自由参加で算数の学習と言っても、本当は親に強制されたりしてるのでしょ?」
「どうかな、五年生は万里ちゃんと会えるから嬉しいし、今日の参加者は算数の時間に教える側の人、格好良い人ばかりだからね。」
「そっか。」

僕の班は二人来ていたので、真紀ちゃんを簡単に紹介し。
「どう、予習は進んだ?」
「私は勢い余って、六年生範囲まで済ませてしまったわ。」
「僕もだよ、正一が話してた通り割合が少し分かりにくかったけどね。
ついでに、兄ちゃんの教科書借りてちょっとだけ中学の数学を見てみようと思ったんだけど、兄ちゃん教えるの上手いからついつい進んじゃって。」
「流石だな。」
「ねえ、この班は一番優秀な人の班なの?」
「うん、まあ算数は得意だね。」
「私、それほど成績悪くないけど、そこまで予習する気はなかったな。」
「先輩にね、能力の高い人にとって学校のカリュキュラムは無意味だと考える人がいたんだ。
で、小中学校で試してみたら、算数は先まで進むと更に理解が深まるという結論になってね。
中学の数学倶楽部では高校生内容まで進んでる人が何人もいるそうだよ。」
「へ~、正一君は?」
「まだ中一レベルの途中。」
「それって、まだ、なの?」
「上には上がいるからね。」
「う~ん、算数って簡単に百点取れるから満足してたのだけど。」
「それだと、自分の力を伸ばすチャンスを逃すことにならないかな。
算数を教えていて気付くのは個人差なんだ、簡単に理解出来る子と出来ない子の差は大きい。
それなのに、同じ教科書を使って同じカリキュラムだから、色々無駄が有ったんだ。
鹿丘小では教え合う事によって、その無駄を減らしているのさ。」
「でも、それだと教えている人にとって無駄な時間にはならないの?」
「教える、という作業は凄く頭を使う作業でね、算数の問題を解く以上に色々な能力が身に付くと実感してるよ。」
「そうなんだ、まずは予習をしないとだめなのね。」
「良かったら、二学期の学習内容を説明しようか、僕らも実際に教えてみた方が理解が深まるし、教える時のポイントが掴めるからさ。」
「お願いします。」
真紀ちゃんは理解が早くて…。
「正一君に教えて貰うの、なんか楽しいわ、先生より分かり易いのは何故?」
「教え方はみんなで研究してるんだ、六年生と一緒にね。」

そこへ、その六年生の中心、万里ちゃんが来ました。
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夏休み-07 [シトワイヤン-18]

山上さんが帰られ、寝る子がテントに入った所へ、中学生の恵美さんが来てくれました。

「正一、山上さんの話はどうだった?」
「うん、面白かったよ、絶対王政とか市民革命とか。」
「そっか、山上さん、歴史得意だからね、中学の先生より分かり易いのよ。
で、その子が正一の新しい彼女なの?」
「えっ、そんなんじゃないよ。」
「武田君、違うの? 
私のことは…。」
「あっ、泣かせた。」
「ま、待ってよ…。」
「な~んてね、彼氏彼女って良く分からないけど、武田君とはうんと仲良くなりたいかな。」
「清水さん…。」
「ふふ、面白い子ね、それならまずは武田君ではなく正一って呼ばなきゃ。
ここは鈴木さんが多いから、下の名で呼び合うのが普通なの、ちなみに私は鈴木恵美、中二よ。」
「はい、清水真紀、五年生です、よろしくお願いします。」
「ねえ、都会では普通にアイドルとかに会えるものなの?」
「イベントとかライブに行けば、でも、苗川のアイドルほどのオーラは有りませんよ。」
「やはりそうなんだ、万里ちゃんって不思議なのよね、見つけるとドキドキ、それから心がほんわかして、でも舞の時は…、ねえ正一、知ってた?
万里ちゃんの舞姿を映像作品やポスターにする話が出てるって。」
「えっ、知らなかった。」

そんな話をしているところへ。
「そろそろここは片づける、眠い奴は寝て良し、十分で済ませるぞ。」
その声と同時に中学生達が手際よく片付け始め、ほとんど手伝えない内に終わって…。
「じゃあ行こうか。」
と中学生のリーダー。
「武田君、どこへ行くの?」
「清水さんは眠くないんだね?」
「うん、朝はゆっくりで良いのでしょ?」
「じゃあ、リーダーに付いて行けば、すぐだからね。」
少し上ると開けたところに出る。
「あっ、流れ星!」
「良かった、清水さんが見つけてくれて。」
「えっ?」
「流星群の時期なんだけど、今回は条件が悪いそうでね。」
「あっ、また流れた!」
「恵美ちゃん、やっぱり少な目?」
「そうね、月が明るいから星があまり見えてないでしょ。」
「えっ、そうなのですか、沢山の星が見えてますよ。」
「そっか、まだ真紀ちゃんは苗川の星をまともに見てないんだ。
新月だと月の光がないから星が沢山見られるの、流星群が来てる時が、晴天で新月だったら参加者はうんと多かったのよ。」
「でも、流れ星が見られて感動です、私、本物の流れ星見たの初めてなんです。」
そこへ…。
「When you wish upon a star ♪
Make no difference who you are ♪
Anything your heart desires ♪
Will come to you ♪」
綺麗な歌声が響き渡る。

「ふふ、真紀ちゃん、今度はウソ泣きではなさそうね。」
「はい…、絶対忘れられない夏休みになりました、あの歌声は?」
「四月に転校して来た咲子、歌はみんなのリクエストに応えてくれたの、夜の山は響き方が全然違うでしょ。」
「はい、こんな幻想的な歌声を聞いたのは初めてです。」
「私もよ、咲子の歌をここで聴いてみたくて、お願いして正解だったわ。」

咲子さんの歌声はとても綺麗で感動しました。
暗くて良く分かりませんでしたが、目に涙を浮かべている人は少なくなかったみたいです。
その後、清水さんは中学生達に紹介され、僕は咲子さんに紹介して貰いました。
「うふっ、こんな可愛い仲間もいるのね。」
と、つぶやいて、僕の頭をなでてくれた咲子さんが、涙声になってた理由は後で恵美さんに教えて貰いました。
僕たちの町が迎えた新しい仲間の中にはつらい思いをして来た人がいて、これからも、そんな仲間が増えて行くかも知れないという話と一緒に。
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夏休み-06 [シトワイヤン-18]

今、残ってるのはテントで泊まって行く子達です。
グループに分かれておしゃべりの時間、僕らは青年部副部長山上さんのグループを選びました。
山上さんは色々な質問に答えてくれる人です。

「中川君と清水さんは初めてなのかな?」
「はい、よろしくお願いします。」
「どう、苗川の印象は?」
「思っていたよりうんと良いです、大人も子どもも皆仲良しで、鹿丘小の子と新学期から馴染めるか不安でしたが、もう仲の良い子が何人も出来て、五年生リーダーの武田くんは頼りになります。」
「はは、確かに正一は頼りになる、どんどん頼って構わないが、時には手伝ってあげてね。」
「はい、もちろんです、ここでは色々な事を助け合いながらやっているって、中学生の方々が教えてくれました。
中学生の人に教えて貰うのも、低学年の子に気を配るのも、私にとって新鮮な経験です。」
「やはり都会の子はそうなんだね、遊ぶのは同学年ばかりだったの?」
「はい。」
「それには一つ問題が有ってね、実際の社会は色々な年齢の人で成り立っているでしょ。
大人に成った時、同じ学年の人としか付き合えなくては困ると思わないか?」
「ふふ、武田君にも同じ事を言われました。」
「あっ、失礼、もう分かって来てるのだね。」
「武田君と歩いてると、大人も子どもも、中学生も高校生も関係なく声を掛け合っていて。
何時も孫の面倒を見てくれて有難うというお年寄りから飴を貰ったこともあります。」
「まあ、正一は年上に可愛がられるタイプだからな。
どう、何か疑問に思っていることで正一に聞いてない事が有ったら答えるけど。」
「さっき、市民政党若葉の話が少し耳に入りまして、私は苗川市民になったと思うのですが市民政党って苗川だけではないのですよね。」
「良い質問だね、ややこしいのだけど、市民という言葉には二つの意味が有るんだよ。
市という行政区分に対する市民という表現は国に住む人を国民と呼ぶのと同じ感覚だけど、もう一つが元々の意味で、主体的に政治的社会集団を構成する人のことと言えば良いのかな…。
さて、清水さんと中川君は難しい話は苦手かな?」
「僕は知りたい派です。」
「私もです。」
「それは嬉しいね、このグループはそういう子向けなんだ。
昔のヨーロッパでは絶対王政と呼ばれる、国王が絶対的な権力を握っていた時代が有ってね…。」

山上さんは絶対王政と日本の比較、市民革命の話など、僕らを飽きさせない調子で話してくれて。

「だから国王に絶対服従していた人達は国民では有っても市民では無かったのさ、自分から政治を考える集団の一員ではないからね。
清水さんの疑問に戻るならば、正一は良く学び社会集団の一員として自分が何をすべきか考えているから、市民と言える、大人でも自分の事しか考えられていない人は市民とは呼べないんだよ。」
「選挙に行かない大人は苗川市民では有っても、本当の市民では無いということですね。」
「中川君、その通りだ。」
「僕には選挙権が無いけど、苗川に貢献出来たら本当の市民に成れる、あっ、このグループの人達にとっては当たり前のことでしたか。」
「安心して良いよ、僕も今日、山上さんの話を聞かせて頂くまで、市民という言葉に、もやっとしていたんだ。」

眠くなる子が出始めたところで、山上さんとの時間は終わりました。
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夏休み-05 [シトワイヤン-18]

裏祭りは小学校近くの広場で行われていますが、祭りと言っても大人達がお酒を飲んだり、子ども達が花火をしたりして遊ぶだけです。
僕の役目は、清水さんと中川君のお父さんをグループ長の鈴木さんに紹介して終わりですが、そのまま皆さんの話を聞かせて貰っています。

「鹿丘の森には歴史が有ると聞きましたが。」
「ええ、元々は里山で、薪にする為の木を伐り出したりして管理されていたのですが、薪を必要としなくなった頃から荒れ始めました。
でも鹿丘の森は小学生の自然観察エリアで有り、遊び場でも有るという事で、大人達は最低限の維持管理をしていたのです。
そこに、自分達の為の作業だと知って手伝う子どもが現れ、ささやかながら大人と子どもの共同作業が始まりました。
子どもが手伝う様になると、作業後、この広場で焚火しながら差し入れを食べたりすることが始まりまして。
その後青年団が加わり、夏の夜には作業関係なく飲み会が開かれる様に、それが定着し裏祭りの原型となったのです、今から四十年以上前、私が生まれた頃の話です。」
「へ~、そんな経緯が有ったのですか。」
「森は子ども達が夜、クワガタを捕りに行っても危なくない様に少しずつ整備されました。
大きな変化が有ったのは、現市長の本間さんがお祭りの実行委員会に参加される様になってからです。
お祭りの活性化に若者の力を、という彼の提案を受け入れた連中が話し合った結果、家族で参加出来る、今の裏祭りになったのですよ。」
「やはり、若者にとって出会いの場になっているのですか?」
「その要素は有りますが、主婦だけでの飲み会が開かれていたり、最近は裏祭り実行委員会が、入手した情報に基づいて気の合いそうな人達に同じ日の参加を勧めてみたりもしています。
これからは移住者の方にも馴染んで頂く活動を考えていますので、ご希望が有ればどうぞ。」
「そうですね、苗川移住を機に、一市民としての自分を見直していますので…。」
「苗川に越して来られて発見は有りましたか?」
「はい、今まで、実に大きな労力を通勤に費やしていたと改めて実感しています、体力的にも精神的にも。」
「都会の満員電車は、ちょっと、想像できませんが…。」
「通勤ルートの関係も有ったのですが、二度と満員電車での通勤はしたくないですね。
そして、苗川での発見としては人の表情です。
皆さんが、見知らぬ子で有る筈の我が子へも優しい笑顔を向けられているのを目にしまして、これが本来有るべき姿だと思いました。
娘たちは、防犯ブザーを持たされ、知らない大人を警戒する様に教育されて来たのですよ。
私も、通勤時には何を考えているのか分からない暗い表情の人に囲まれていましたので、それを疑う事は無かったのですが。」
「子は国の宝ですからね。」
「今は、子ども達を本当の意味で守れる格好良い大人になりたいと思っています、まだ、武田君との距離感さえ掴めてはいませんが…。」
「そうですね、同様に…、ここは転出する人はいても転入して来る人がほとんどいない状態でしたので、清水さんや中川さんとの距離感を掴みかねる人が普通にいると思います。
自治会の窓口はご存じですか?」
「はい、すでにお世話になっていますし、自分達は今後の移住に向けてのテストケースでも有りますので、その役目を果たさせて頂きたいとお伝えして有ります。」
「我々としては、過疎化に悩む地方都市へ、過密状態の都会から一番良い形で人を受け入れさせて頂く形ですから嬉しい限りなんです、不快に思われた事は、こじらせる前に教えて下さい。」
「はい、それが苗川大改造を成功させることに繋がりますものね、それで…。」

大人達の話は尽きませんが、僕は、花火を終えた子ども達の所へ移動します。
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夏休み-04 [シトワイヤン-18]

中川君達とのクワガタ捕りは裏祭り実行委員の人に調整して貰いました。
当日はまずクワガタ捕りですが、僕の役目はお父さん達の相手です。

「武田君、クワガタ捕りには良く来るの?」
「今年は三回目です、神社のお祭りとか有りましたので。」
「そうか、お祭りの準備は大変だったのかな?」
「そうでもないです、小学生に出来ることですから。」
「どんなことをしたの?」
「縁起物の飾り作りとか。」
「あれを作るのか、難しくなかった?」
「中学生のお姉さんに上手な人が居て、コツを教えて貰いました。」
「毎年作業してる慣れた大人が指導するのではないの?」
「はい、大人は都合に合わせて交代なので、中学生が一番慣れています。
作業は中学生がチェック、手直しして完成です。」
「結構な数だろ、大変じゃないのか?」
「小中学生と大人、十二人のチームでおしゃべりをしながら楽しく作業をしました。
大勢が参加することが大切なので、一チームが作る数は多くないんです。」
「成程、高校生になると引退なのかな?」
「高校生は縁起物の最終チェックとか経理を担当していたりしますが、青年部と一緒に設営関係の作業を担当する人もいます。
どの作業も男女ともに格好良い所を見せられるチャンスで出会いの場、お祭り当日には準備作業を通して仲良くなったカップルが担当する仕事も有って、お祭りきっかけで婚約、結婚というカップルもいるのです。」
「出会いの場か、でも相手が出来なかった人は寂しいだろうね。」
「祭りの片付けが終わるまで、自称売れ残りの人達もチームを組んで行動します、お祭りの準備や後片付けは面倒だそうですが皆さん楽しそうですよ。」
「そうか、お祭りにはそういう側面も有るのだね。
ねえ、武田君は『舞』には関係していないの?」
「楽器に挑戦したことは有るのですが自分は楽しめなくて、物を作る作業の方が好きなんです。」
「何をするかは自分で決めてるのかな?」
「はい、準備に参加しなくても問題有りません、おやつ目当てだけで参加している子もいます。」
「はは、それでもお祭りのワクワク感を感じるのだろうね。」
「普段、顔を合わせることの少ない人とも一緒で楽しいです。
あっ、リーダーが説明を始めました。」
「中学生でも頼もしいね…、はは、うちの娘はクワガタには興味がないなんて言ってたのに質問してるよ。」

クワガタ捕りは中学生が手伝ってくれます。
清水さんのお父さんもクワガタを捕まえて満足気。
捕まえた中から欲しい人が少しずつ貰って、後は逃がしました。
それから裏祭りの会場へ移動です。
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夏休み-03 [シトワイヤン-18]

水遊びイベントの二日後、僕らは八人の転校予定者と過ごしています。
引っ越しを終えた四年生以上の子達です。
三年生以下の子は真一君と絵里ちゃんが、転校して来てから間が無いのにすっかり僕らの兄貴分になった翔太君達と一緒に、少し餌付けしながら可愛がると話していました。

「川の水が綺麗ね。」
「清水さん、都会の川は綺麗じゃないの?」
「そうね、こんな飲めそうな水じゃないわ。」
「あっ、飲むなら湧水にしなよ、ここの水よりおいしい筈だから。」
「湧水にはゴミとか混じってないの?」
「はは、混じってるかも、気になるなら飲まない方が良いね。」
「うちは家族で良くキャンプをするのだけど、そういうことを気にし過ぎてると弱くなる、えっと抵抗力がつかないんだってさ。
殺菌とかに気を遣い過ぎる日本人は、アフリカとかでは大変な思いをするんだよ。」
「ふふ、武田君、中川君みたいな転校生もいるのよ。」
「えっ?」
「昨日、移住して来た、転校予定者の家族が集まって色々話したの。
中川君のとこみたいに、元々両親が自然、アウトドアが好きで、冬のスキーやスノボを含めて移住を決意した人もいるのよ。
都会から逃げ出したかったという思いは同じでも、子どもがいじめに遭って環境を変えたくてという人だけでなくね。」
「そうなんだ。」
「なんにしても苗川のことは武田君達が先輩なんだから色々教えてね。
出来ればクワガタの居場所とか、キャンプに行ってもなかなか見つからなかったんだ。」
「うん、捕まえたのはどうするの?」
「丁寧に飼って最期は標本というのが理想かな。」
「沢山捕まえて売るとか考えて無い?」
「売り買いは違う気がする、うちの親が絶対に許さないよ。」
「そっか、なら安心かな。
夜に行くから、良かったら家の人も一緒だと良いのだけど、同じ町の住人同士顔見知りになって置きたいでしょ。」
「うん、分かった、行く時は家族全員で、人と人の関係が都会と違うというのは、そういうことなんだね。」
「ねえ、大勢で行って、逃げたりしないの?」
「はは、大丈夫だよ、清水さんも来る?」
「そうね、クワガタよりも、夜に皆でというのが楽しそうだわ。」
「じゃあ、天気が良ければ何時でも良いのだけど…。」
「昨日集まった家族にも話して良い?」
「構わないというより誘って欲しい、ただ予定の人数を前日までに…、ホントは予定の人数だけで良いのだけど初めての人は名前も教えて欲しいかな。
ねえ、裏祭りの話はまだ聞いて無い?」
「それも、市民祭のイベントなの?」
「そうだな、神社の祭りと微妙なんだけどね。」
「クワガタ捕りが祭りと関係するの?」
「まあ、そうなんだけど。」

裏祭りとクワガタ捕りの関係は簡単には説明出来ません。
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夏休み-02 [シトワイヤン-18]

万里ちゃんは大人達と暫く話した後、僕らの所に来てくれました。

「初めましての人達、鈴木万里です、よろしくね。
ねえ、正一は、新しい仲間と仲良くなれそう?」
「うん、ノープロブレムだよ。」
「真一から聞いてくれたかな、もう引っ越しを済ませてる人もいるから、山や川で安全に遊ぶ為のルールを伝えて行く話。」
「聞いてるけど、僕はこの六人に伝えれば良いのかな?」
「そうね、大人達にも動いて貰ってる最中だから変わるかもしれないけど、お願い出来る?」
「もちろんさ、安全は何よりも優先、真一くんから何時も言われてるからね。」
「じゃあ任せたわ。
あっ、もうこんな時間か、私も水鉄砲で正一を撃ちまくりたかったな。」
「はは、和馬さんが暇そうにしてるから、早く行ってあげた方が良いんじゃないの。」
「うん、約束の時間だから、そろそろ行くね、みんな、まったね~。」

「武田くん、私ね、テレビに出てるアイドルと会ったこと有るのだけどさ。」
「へ~、そういうのが都会暮らしのメリットなのかな。」
「それがね、全然普通のお姉さん達で、従妹の女子大生の方が綺麗で歌が上手だったりするのよ。」
「そうなんだ、あんまし興味ないから分からないけど。」
「だから、苗川のアイドルなんて地下アイドルみたいな人かと思って失礼なことを言ってたかもなんだけどさ、ねえ、いるだけでオーラ出しまくりの、あの美少女は本当に人間なの?」
「多分ね、僕らにとっては小さい頃から面倒見て貰ってる、最高に優しいお姉さんなんだ。」
「何かお願いされてたけど、あの人にお願いされたら絶対断れないわね。」
「はは、断りたくなる様なお願いは絶対されないし、むしろお願いされるのは認めて貰ってる証拠で嬉しいんだよ。」
「そうなんだ。」
「それでね、みんなに聞いて欲しいのだけど、夏休み中の空いてる日に苗川を案内させて欲しいけど、どうかな。」
「それは嬉しいかも、早く慣れたいからね。」
「環境が変わって慣れていないということで事故に遭って欲しくないんだよ。
川遊びには川遊びのルールが有るし、クワガタ捕ろうと森に入る時もね。
都会の子に話すのは変かも知れないけど、交通事故にも遭って欲しくないし。」
「工事中が多いものね。」
「うん、古い町は道が狭いのに通り抜ける車が多かった、苗川大改造で道を広げ町を作り直している最中なんだ。」
「凄い事なのでしょ、道を広げるのは、そこに住んでいた人に引っ越して貰って、道路の面積が増えるという事は住める場所が凄く減ることだって聞いたわよ。」
「だから普通は反対する人が多くても不思議じゃないんだって、でも苗川はね。」
「うん、反対する人が少なくて効率良く工事が進んでいるのでしょ、町が姿を変えて行くのは楽しみだから工事は仕方ないのよね。」
「でね、工事の人達と情報共有をしてるんだ。」
「情報共有?」
「元は工事を見学したい人向けの情報で、建設機械の紹介だけでなく見学するなら見易くて安全な場所と時間、車両の出入りが多くて出来れば近付いて欲しくない場所とか時間を教えて貰っているのだけどね。
僕らは学校が始まればあまり関係ないのだけど、知って行動していれば危なくないし、作業効率にも影響するそうなんだよ。
ダンプカーが無駄に歩行者を待つ時間を減らすだけで、燃料の節約になるし空気を汚さずに済むんだ。」
「綺麗な空気を汚したくないということなのね。」
「うん、道路が新しくなってる所では、信号待ちの時間を減らす実験にも取り組んでるよ。」
「知ってるわ、国道は制限速度を守っていると信号待ちの回数が減るのでしょ、お父さんは信号待ちゼロを目指して運転してるって話してた、そうそう、家の近くにラウンドアバウトの交差点が出来てて新鮮だったわ。」
「僕も気に入ってる、お洒落だよね。
あっ、僕らの番だ、後の話は終わってからするよ。」

それから水鉄砲を使ったゲームを中心に色々とみんなで遊び、今日初めて会った子達とも楽しめました。
特に、積極的に話してくれた清水さんは、鹿丘小の五年生にはいなかったタイプの子ですが仲間として早く打ち解けてくれそうです。
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夏休み-01 [シトワイヤン-18]

僕は、武田正一、鹿丘小の五年生、今は充実した夏休みを過ごしています。
神社のお祭りでは緊張することも有ったけど、六年生リーダーの万里ちゃんからは合格点を貰えたし、万里ちゃんが決めてくれた夏休みの宿題も順調で、えっと、ノープロブレムです。
今日は苗川市民祭の小中学生向けイベント、会場の小学校には転校予定の子も来ていて、子ども同士の交流が始まっています。

「ねえ、このグループは鹿丘小へ転校予定の子が一緒だって聞いたのだけど。」
「ええ、私達は引っ越しを済ませたわ、この子達は違う小学校からなんだけど、お父さん達が同じ職場で働き始めているのよ。」
「そっか、僕は鹿丘小五年生リーダーの武田正一、よろしくね。」

十二人のグループの半分は転校予定、残りは鹿丘小の児童ということで、自己紹介をし…。

「ねえ、鹿丘小ではいじめがないってホントなの?」
「今の所はね、転校生にいじめっ子がいたら嫌だな。」
「そっか、でも、どちらかと言うといじめられてた子が多くなりそうだから、気を付けてあげなさいって親に言われたわ。」
「あっ、四月からの子にもいたよ、ほら、今、水鉄砲で遊んでるグループの青い服の子。」
「へ~、普通に可愛い子じゃん、友達になれるかしら。」
「越して来た頃は暗い感じの子だったんだけどね。
逆に君みたいな子は、田舎暮らしに抵抗はなかったの?」
「そりゃあ、友達と別れるのは辛かったわよ、でも下見に来た時の山の風景や…、知らない大人は怖い人だと思って目を合わせず距離を置くように言われてたのに、苗川の人達は全然そんな雰囲気じゃなくてさ。」
「苗川しか知らないから良く分かってないんだけど、お祭りの指導をしてくれる人は苗川の大人は特別なんだって言ってるよ。」
「うん、越して来て間が無いけど、満員電車にはもう耐えられないと話してたお父さんに笑顔が増えたのは事実だわ。」
「あっ、万里ちゃんだ。」
「万里ちゃ~ん!」
「手を振ってくれてる女の子は僕らのリーダーでね。」
「知ってる、映像で見たわ、思ってたより小さくて可愛いのね、十万十二歳、苗川のアイドル、大人達が夢中になってるとか。」
「はは、万里ちゃんは僕らのお母さんだったりお姉さんだったり先生だったりするんだ、先生のいう事を聞けない低学年の子でも、万里ちゃんの言う事には大人しく従うんだよ、転校して来て嫌な思いをしたら僕に話してくれて良いけど、万里ちゃんに相談すれば解決が早いからね。」
「へ~、テレビ番組だから大袈裟に話してるのかと思ってたけど、ホントに人気者で頼りにされてるんだ。」
「十万十二歳説は大人が勝手に言ってることで、あまり好きじゃないみたいだけど、苗川のアイドルなのは間違いなくてね、うちにも舞姿の写真が飾ってあるんだ。」
「何となく分かるわ、周りの人達の表情が違うし…、あっ、会場中の人達が注目して笑顔になってるような…。」
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お祭り-10 [シトワイヤン-17]

通称、清香村は、市街地から少し離れた廃村を整備し直しての開発が進んでいるエリア。
高級別荘地の他は、主に都会からの移住者が住んでいる。
車で二十分程度の距離だが、私達にとっては初めての訪問。
どんな村になっているのか興味が有る。
そこでのイベント『新しい村祭りを考える』へ招待されたのは、清香さんの、村人に私達を紹介したいという意図が有った。
行きの車中では…。

「万里ちゃん、結構山奥だろ。」
「はい、和馬さん、この辺りの道路工事は後回しなのですか?」
「ああ、この道から先は清香のとこの社員しか住んでいないからね、ファミリーが暮らし始める頃には間に合わせるそうだが、まだ先のことだよ。」
「という事は、新しい村祭りのスタートに子どもの参加は無いのですね。」
「村人の子どもはいないが、社員の子どもなら町に住んで鹿丘小学校に通ってる子がいるが、まあ神社のお祭りみたいには参加できないだろうな。
その代わりでもないが、苗川の舞姫が秋祭りに降臨という要望は出ているんだ。」
「万里の出番ですか?」
「はは、私としては智里ちゃんの舞も見てみたいのだがね。」
「お姉ちゃんが男装してというのはどうかしら、何の由来も伝承も無くて良いのなら。」
「なに、そんなものはでっち上げれば良いのさ。
取り敢えず女神像を祀って賽銭箱を置いてみたら結構儲かってね。
そうだ、万里ちゃん像を作ってだな、愛華、売れると思わないか?」
「そうね、家の守り神として買う人は少なくないでしょうね、売値は…。」
「あ、あの~、私のフィギュアなんて売れないと思うのですが。」
「万里ちゃんの写真が苗川のそこらじゅうに貼られているのは知ってるでしょ?」
「えっ、少し目にしたことは有ったけど…。」
「私達の写真やポスターも貼って頂いてるけど、完全に負けてるし、万里ちゃんの写真を拝んでる人の姿を良く見るわよ。」
「う~ん、時々私に向かって手を合わせる人はいるけど…。」
「孫が世話になってるとか、神様の子どもだからとか聞いたことが有るんだ。
伝説はすでに始まっているのさ、ストーリーは愛華が史実に則とってでっち上げる。」
「どうしてそうなるのですか?」
「それだけ、万里ちゃんの舞が神々しくて我々の心を射抜いたということさ。
舞を一緒に見ていたミュージシャンも射抜かれた一人で、次々と発想が広がっているそうだよ。」
「えっ、和馬さん、万里の舞はすごい大御所とご覧になられていたかと思いますが。」
「ああ、彼だよ、今頃、万里ちゃんの到着をワクワクしながら待ってるだろう。」

『新しい村祭りを考える』というイベントは私達が想定していたのとは全く違うものだった。
万里が村に降臨し繁栄をもたらす、なんて筋書きが出来ていて、一つの鼓に合わせシンプルに舞始め、ラヴェルのボレロ の様に盛り上がって行く曲のサンプルも出来上がっていた。

「私達は覚悟を決めて移住してきたけど、どこかに迷いが残ってた気がするのよ、それがね、万里さんの舞を見ていたらなんか吹っ切れてね、私だけじゃないの、そこのごつい男は目に涙を浮かべていたし、それでね、会った事もない神様より、私達の村の守り神には万里さんになって欲しいのだけど。」
「いえいえ、ただの子どもですから。」
「舞を見た後に告白して結ばれたカップルが何組かいるのだから、縁結びの神さまでも有るのですよ。」
「ついでに安産の神様とか。」
「はは、何でも有りだな、神様でなくても、精霊とか妖精とか座敷童でも良いんじゃないか。」
「万里、面白そうじゃない、そうね、捧げものはステーキとか、満月堂のケーキとかにして貰いましょう。」
「もう、お姉ちゃんたら、恥ずかしいわ。」

そして万里は神格化された舞姫となった。
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お祭り-09 [シトワイヤン-17]

市民祭の一環として、普段は市民政党若葉のシステム上で議論している人達のグループが苗川で顔を合わせてのフォーラムが開かれている。
その中で鹿丘小学校の活動に注目しているグループに呼ばれ参加する事になった。

「智里さんが『格好の良い子どもになろう』と提唱し始めた頃の小学校はどんな感じだったのですか?」
「他を知りませんが、普通の田舎の小学校だったと思います。
ただ、高校生になって他の生徒の話を聞いていると、純粋な良い奴ばかりだったみたいです。
大人達が変わろうとしてるの感じ取ってた子どもは私だけではなかったですし。」
「大人達の変化はそれほど顕著だったのですか?」
「本間市長の影響を一番早く受けたのは、お祭りの実行委員なのですが、小学生の子を持つ親は地域活動に参加する人が多いのです。
私の両親も『あまり肩ひじ張らずに子どもから尊敬される親を目指す』というテーマで討論していたそうです。」
「それを受けての『格好の良い子どもになろう』だったのですね。
高校生になられた今は、その時の意識改革をどう捉えていますか?」
「そうですね、小学生ながらに共通のテーマを持った事は本当に良かったと思っています。
スタートした頃は本当に試行錯誤でしたが、すでに鹿丘小の伝統となり妹達が引き継ぎ発展させてくれています。
これから転校生が増えますので形が変わるかも知れませんが、転校生達がどんな気持ちで田舎に越して来るにせよ意識改革の意味は強くなると思っています。」
「万里さんはそんな意識改革が進んだ鹿丘小で成長されたのですね。」
「いえ、私達も低学年ながら意識改革を進めてきました、むしろ高学年より視野の狭い子が多い訳で姉達とも色々相談したのです。」
「智里さんは低学年をどう見てたのです?」
「万里の言う通り、低学年は内面の格好良さというテーマを考えるには早いのですが、周りの環境が整っていれば効果的な教育が出来ると思っています。」
「鹿丘小ではその環境を作る事に成功したということですね。」
「はい、小学一年生だった万里は私達や大人の話を理解し、周りの子ども達に伝えてくれました。
ただの美少女ではないのですよ。」
「万里さんは、本当に理解していたのですか?」
「そうですね、姉や大人達の話に耳を傾けるのは好きでしたし、姉が正義感溢れる人ですので、私も周りの子の面倒を見ることを自然としていました。
ただ、鹿丘小で『格好の良い子どもになろう』が進んだのは決して特別なことではなく、単に児童の多くが『格好の良い子どもになろう』を意識しているからだけだと思っています。」
「それを意識させる切っ掛けを作って来たと考えれば宜しいですか?」
「はい、大人達もして来たことです。」
「私の住むエリアでも『格好の良い子どもになろう』を根付かせたいと考えているのですが、子どもの自主性任せでは難しい気がしています。
どう、切っ掛けを作れば良いと思いますか?」
「小学校へ見学に来られる方と話す機会が有り、同様の話を聞きますが、私は、大人扱い出来る子を見つけて大人扱いすることから始めてみては、と提案させて頂いています。
私達はまだ子どもで大人では有りませんので、すべてを大人扱いする必要は有りませんが、小さなことでも、それが増えれば。
苗川には私を大人扱いする大人が大勢いるから、今、この場に私がいるのです。」
「子どもによっては、大人扱いされることで成長する、と考えれば良いのでしょうか?」
「もちろん、背伸びをさせ過ぎて行けません、大切なのはバランスです。」
「はい、気を付けます。」

それから暫く大人達は万里から有難い言葉を頂くのに夢中になる。
話してる内容は凄く特別なことでも無いのだが万里が話すと心に響く様で、会が終わる頃にはすっかり主役となっていた。
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