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舞姫-01 [シトワイヤン-24]

中学を卒業して自由になったと思う。
遊んで暮らしている訳ではないので暇ではないが自分の判断で時間を使える様になったのは嬉しい。
義務教育。
小学生の頃はただ素直に学校へ通っていた。
不思議な子と言われることは有ったが、気にせず正しいと思えることをしていたと思う。
中学生になって。
中学生になって沢山の事に気付かされた。
自分と人との違い、などなど。
どう考えても中学のカリキュラムは私に合っていなかった。
英語、高校生の教科書だって普通に理解出来るのに…。
社会、歴史の目次のような薄っぺらな教科書を読み終えるのに時間は掛からなかった。
数学、興味を持って予習を進めていたので…。
中身の薄い授業と苦手な体育、救いは音楽と美術ぐらいだったか。
まあ、教師と交渉して授業とは関係ない本を読んで過ごすことを許可して貰えたのは良かった。
お蔭で沢山の本を読めた。
自分が他の子と違うことについて考えもした。
人それぞれ個人差が有る、私とは逆の理由でカリキュラムが合わない人もいる。
とは言え、舞姫と呼ばれ大人が跪く自分はかなり特殊だと思う。
私がラッキーだったと思うのは、本間塾長との出会いだ。
小学生低学年の頃から上手く導いて下さったと思う。
その導きがなかったら、人を見下す様な嫌な人間になっていたかも知れない。
姉も大切な存在。
小さい頃はとても大きかった歳の差が年々縮まった感が有り、最近は姉が私に意見を求めることも多い。
身長差が縮まる気配は全くないのだが…。

多くの出会いと経験を踏まえて、高校進学という選択肢を選ばなかった。
知識を得るという観点では、高校に通う必要はない。
高等学校卒業程度認定試験には、余程のことが無い限り合格出来る。
中学の授業を聞き流して高校の内容を自分で学習して来た結果だ。
大学の入試問題も解いてみたが、普通に合格圏内に入れた。
周りは天才だとが騒ぐが、単に効率良く学習した結果でしかない。
大学は。
今後必要となる知識は大学でなければ学べないのだろうか。
本来、大学は研究の場だそうだが、興味の幅が広くて研究対象を絞れない。
私には舞姫騎士団という直属の部下の下、必要に応じてスタッフが集められ働いていて、必要性を感じた情報は、そこでまとめてくれる。
また、舞姫騎士団の面々は知識の豊富な人達だが、私の興味に対して必要あらば専門家を紹介してくれるだろう。
大学で研究者としての時を過ごす大学教授と自身が社長として会社を大きくした後、市長となり苗川市を盛り上げている本間塾長の存在。
姉は大学進学せず本間塾長の下で経験を積む道を選んだ。

そう、高校だって大学だって義務教育ではないのだ。
本当に必要な知識を得る手段は幾らでも有ると思う。
チーム再起動のメンバーとはそういうスタンスで話をしている。
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舞姫-02 [シトワイヤン-24]

「姫さま、今日の倉庫実習、楽しかったです。」
「ふふ、中川さんは終了時に作業内容を褒められていましたものね。」
「姫さまは如何でしたか?」
「それがね、私は少し作業をしてから別の現場見学に…、ちゃんとやれてたと思うのだけどな。」
「舞姫さまは優雅過ぎてピッキング作業に向いてらっしゃらないってリーダーが話してましたよ。
舞を舞うが如く作業していらして、御自身のペースがゆっくりなだけでなく、周りの連中が見とれてしまって作業にならなかったとか、ようやく姫さまの弱点を見つけました。」
「え~、私、球技とか全然駄目で、弱点だらけなのですよ。」
「姫さまが倉庫の中を飛び回ってたら、それはそれで違和感を感じます、私の姫さまはピッキング作業なんて似合いません。
パソコンの入力は凄く早くて華麗なのですから、オフィスの華になって下さい。」
「はいはい、考えておきます。
今日の現場はスケジュールが合えば、今後も入る事が可能です。
何度か入ってみて、大丈夫だと思ったらコンスタントに入る事も出来ますので、相談して下さい。
それと来週は、今日と同じ様な現場なのですが、もっと機械化されてる物流倉庫の見学に行けます。
今日の現場と比較して見ると面白いですから、是非参加して下さい。」
「その現場は実習ではなく見学なのですか?」
「ええ、でも働きたかったら、掃除の仕事をお願いしても良いですよ。」
「あっ、お願いしようかな、姫さまに教えて頂いた『考える掃除』を実践してみたいです。」
「良い心がけだけど、単に草刈りを依頼されたとしても、そこから思考を広げられそう?」
「はい、姫さまのお話から、観察と思考、発想の転換、単純作業だったら自分にも脳内作業の余裕が有る事に気付きましたので。」
「では、お願いしてみます。
他のスケジュールは各自確認しておいて下さいね。」
「姫さまは、来週何回くらい来て下さるのですか?」
「倉庫見学と、今後の新人受け入れについての相談会はチーム再起動と動きますよ。」
「自分は農業実習の報告を、客観的な視点で捉えた形で見て頂ける様、相談会までにまとめておきます。」
「私はスーパーでの実習を、お客様目線と店員の立場という観点から整理しているのを完成させますので見て下さい。」
「ふふ、焦らず頑張り過ぎないで下さいね、チーム再起動には充分な時間が有ります、少し慣れて来た時に失敗する事は良く有る事だそうですよ。
もっとも、もう失敗から学ぶということにも馴染んで来ましたね。」
「姫さま、私、嬉しくて仕方ないのです、姫さまと出会って始めて学ぶという事の意味を理解した気がしまして。
学びとは与えられるものでなく自ら求めるものだ、なんて視点は持っていませんでしたし、そもそも学校でする学習の意味すら考えていませんでしたから。
自ら学ぶ楽しさ、それを世界中の人から崇拝されている、舞姫さまに導いて頂けるのだから自分たちは幸せ者です。」
「ふふ、大袈裟なんだから、さあ、肩の力を抜いて、今日を振り返りましょう。
実習を通して、気付いたこと、発見したことは有りますか?」
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舞姫-03 [シトワイヤン-24]

「姫さま、発見と言うか最近ずっと考えているのですが、学校教育って元々富国強兵とも関係して、本来労働力を高める意味が有ったと思うのです。
ですが、実際に仕事の現場を体験してみると、学校では大切なことが欠け落ちている気がするのです。」
「長田さんは何が欠け落ちていると感じましたか?」
「例えば、高校生でも底辺レベルの連中は、授業内容をろくに理解もしないで卒業して行きますが、もし授業を聞いていたとしても、それが卒業後にどれだけ役に立つのか大いに疑問なのです。
彼らにとっての高校は、ただ単に体と心が大人になるまでの繋ぎで、取り敢えず高校みたいな。」
「そうですね、何らかの技術を身に着けようという気持ちが有れば少しは違うかも知れませんが、何の為の学校教育なのか、今まで疑問に思わない人ばかりだったのが不思議でなりません。
漠然と通う高校で将来の進路をどう考えて…、いえ、考えてなさそうな人が少なからずいそうだと、姉の話を聞いていて思いました。」
「自分もその一人です、将来の仕事のことなんて見えてませんでした。
勿論、しっかりした目標を持ってる人もいましたが、そもそも大人達がどんな仕事をして稼いでるかなんて知る由もなく。
自分は高校をドロップアウトしてチーム再起動に拾って貰ってなかったら、そうですね、就職して始めて会社の仕事を知り、愕然として、すぐにやめるパターンになったかも知れません。」
「姫さまは舞姫としてだけでなく中学三年生の頃から活動の幅を広げて来られたのですよね。」
「ええ、小学生の頃から学習に対して真面目に取り組み過ぎた結果、中学の授業を必要としない中学生になっていましたので、先生にとっては嫌な子だったでしょうね。」
「先生より教えるのが上手な中学生とテレビ番組で見たことが有りましたが、こうして実際に指導して頂いて、それを実感しています。
今まで接したどの教師より分かり易く導いて下さいまして。」
「私も同感ですが、その訳は姫さまが明確な目標を持って私達と接して下さってるからだと思うのです。
教師たちにもそれなりの目標を持っているのでしょうが、クラスの平均点を上げるとか小さな目標ではないでしょうか。
でも姫さまは私達の将来を見据えていて下さる。
私達が自分の能力を発揮出来る仕事に就いて充実した毎日を過ごせる大人になるようにと。
だから、教えて下さるポイントが教師とは違うのだと思うのです。」
「そう言って頂けると嬉しいです。
これから、チーム再起動では皆さんより意欲の弱い方を受け入れて行く方向なのは理解して頂けてると思います。
皆さんほど、再起動に積極的でなくても、我々の仲間として、皆さんの後輩を受け入れることになったら、今度は皆さんが導く側になって頂けたらと考えていますが如何でしょうか。」
「自分、力は姫さまに遠く及びませんが、それはチーム再起動スタートメンバーとしての役割だと考えています。
姫さまの負担は減らして行きたいですし。」
「ここで、後輩の面倒を見れない様では、今まで何を学んで来たのかと言われてしまいます、姫さまに救って頂いたのですから、後輩のサポートはお任せください。」
「皆で学校教育というものを見つめ直しながら、共に成長したいです。」
「百%良い事だとは言えませんが、私達に共通する学校という存在を生贄にすれば、仲間意識を高める事は簡単だと思います。」
「そうですね、生贄にされたところで、学校はビクともしないでしょう。
皆さん、よろしくお願いします。」

チーム再起動のスタート以来、仕事に向き合う上で、自分で考えるという事を重視して来た。
初期メンバーは高校を中退した人ばかりだが、能力が比較的高く、この企画に真面目に取り組んでくれそうな人を選んだ結果、期待以上の結果が出て来ている。
これから、枠を広げて行く過程では様々な問題が出て来るだろう。
でも、このメンバーの協力が有ればそれも乗り越えられると思う。
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舞姫-04 [シトワイヤン-24]

チーム再起動の活動と並行して進んでいるのが大学生向けのインターンシッププログラム、夏休みを利用した企画には、すでに多数の応募が有るそうだ。
その高校生版は高校生部会が検討していて、企業サイドと交渉中。
ただ、企業として早めに繋がりを深めたいのは、将来的に業務の中枢を担ってくれそうな人で有り、高校生に対しては消極的。
それでも、高校生部会で研修を行い、そこで意欲を確認できた者を受け入れて貰う方向で話は進んでいる。
本当は、意欲の弱い人にこそ、こういった企画を体験して欲しいと思うのだが、企業サイドにしてみればそんな高校生は迷惑でしかない。

「お姉ちゃん、学校の成績が悪く、企業体験に興味が無く、将来のことを考えてない人は犯罪者になる確率が高くなると思わない?」
「そうね、高卒で何となく就職して、直ぐにやめてしまった人達はどうしてるのかしら。」
「楽して稼ぐ道に誘われて詐欺グループの一員になったりしかねないよね。
少子化で絶対数の少なくなってる若者が犯罪者になってしまうのは嫌だな。」
「舞姫さまから呼びかけてみる?」
「どういう風に?」
「高校へ進学しなかった姫さまが何をしてるのか、世間の人達は気になってると思うわよ。
和馬さんと相談して、チーム再起動関連の近況報告から、皆さん真面目に将来の事を考えましょうってアピールしてはどう?
先生の言う事は聞かなくても、舞姫さまのお話なら聞き入れられると思うわ。」
「そんな簡単な話じゃないでしょ、私はその対象となりそうな人達とはあまり話したことないし…、私の中学で学力の低かった人でも…、参考にはならないでしょ。」
「そうね、私達が校風を変えて来て…、高校の同級生から聞いた話からすると、私が通ってた頃でさえ、他校と比べてとても平和な中学。
先生からも、万里が入学して更に穏やかになったって聞いたことがあるわ。
中退したくなる高校の実態を万里が想像するのは難しいかもね。」
「直接色々な人と会って、お話を聞くべきかしら。」
「う~ん、奴らも舞姫さまの前では大人しいと思うから、高校生部会のスタッフと相談してみようか。」
「うん、伝聞だけで話すのは間違いの元だと思う。
週一ぐらいのペースで色々なタイプの人と話してみたいかな、怖い人の時はお姉ちゃんも来てね。」
「はいはい、そっちは任せておいて。」
「でも、逆にビビらせないでね、お話を聞けなくなっちゃうから。」
「分かったわ、気を付ける、万里に怖い思いをさせる様な奴は苗川へ遊びに来れなくすれば良いのね。」
「そうじゃなくて~、今、他事考えてたでしょ。」
「うん、やんちゃしてた後輩達がどうしてるかなって。」
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舞姫-05 [シトワイヤン-24]

正直言って俗に不良と呼ばれる人達と話した事はなかった。
そもそも、そういう人はお話上の存在で有り、私にとって現実感は皆無。
私の周りの人達はみんな優しい人ばかりだ。
本間塾長は怒ると怖いそうだが、私は笑顔の本間さんしか見たことがない。
親に強く怒られたこともなく…、まあ、怒られるのは姉の役目なのだが、それも、私の前ではやんわり窘められる程度だった。
至って平和に生きて来たのが、不思議な子と言われる事に関係してると分かるまで随分時間が掛かった。
私にとっての普通は、他の人にとって必ずしも普通ではない。
姉から伝え聞かされて来たヤンキーなる人種も、私にとってはお話の登場人物に過ぎない。
そんなことも有って、私の視野を広げる、という名目で姉が高校生部会スタッフとセッティングしてくれた高校生達との時間は楽しかった、世の中、実に様々な人がいるものだ。
高校生部会は、私と会って話してみたいという人をアンケート付きで募集、アンケート結果から応募者を幾つもの条件によって分類、分類された各個で抽選という、いささか面倒では有るが、確実に私が色々なタイプの高校生と話せる形にしてくれた。
勿論、スタッフ自身の研究目的でも有る。

「万里ちゃん、『舞姫、高校生と語らう』読んだよ、面白かったけど映像でも見たかったな。」
「カメラが入ると緊張する人が多いそうで、和馬さんとは違うのですよ。」
「はは、でも中には目立ちたがりもいたのでは?」
「はい、色々な人と会いましたが、目立ちたがり屋の共通点は周りを白けさせるですね。」
「分かる気がする、文章は高校生部会のスタッフがまとめたのだろ、万里ちゃん自身はどんな感じだったの?」
「そうですね、卒業後の進路を勝手に心配してた『学校の成績が悪くて』みたいな人達が意外と考えていたのは発見です。」
「へ~、そうなんだ。」
「大学進学という選択肢が無い分、職業選択の幅が広くて、そうですね、大卒者が初めからはあまり選ばない職業をイメージしている人が何人もいました。
トラック運転手とか建設作業員とか、仕事の内容は親や親戚から聞いているそうで。
バカでも出来る仕事なのだけど、ホントのバカでは駄目なんだとか、でも高校の授業内容は役に立たないと親に教えられ、高校は卒業出来れば良いから、男は内面を磨けと言われてる人とかいましたよ。」
「内面の恰好良い大人になれということかな?」
「はい、今回お会いした皆さんは、私の卒業した中学出身者を除外してるのですが、苗川市民としての理念は思っていたより広がっているようです。」
「私は知ってたよ、家を出る前に万里ちゃんのポスターを見て、今日も恰好良く有ろうと誓ってる人とかいただろ、結構多いと聞いているのだが。」
「いましたね…、ご家族含め、恥ずかしくなるような…。」
「毎朝、手を合わせて拝んでる人とか、辛いことが有ったら万里ちゃんのDVD見て癒されるとかでしょ。」
「はい、お役に立ててるのなら嬉しいのですが、今回は私のファンから抽選でしたので、多少話が大袈裟になっていたと思います。」
「気になる人とかいなかった?」
「そんなに問題のなさそうな、成績的には中間の人達に、迷ってるとか将来が見えてない人が目立った気がします。
就職をイメージ出来ていない状態で、大学進学をどうするか。
親から勉強しろと言われても出来ないとか。」
「犯罪に手を染めそうな人は?」
「そこまでの人はいませんでした。
スタッフの話では、私のファンにはおバカなことをする人はいても、犯罪に関わりそうな人はいないと、ホントはそういう人とも会わせてみたかったとかで。」
「万里ちゃん的にはどうなの、そういう人とも話してみたい?」
「はい、機会が有れば、どのような人が犯罪を犯すのか知っておきたいです。」
「少年院への慰問とか、どうだろう?」
「少年院ですか…、更生施設ですね…、どのような手続きをすれば良いのか調べてみます。」
「いや、番組の関係で知ってる所が有るんだ、法を犯すとどの様な生活が待ってるのか、子ども達に伝えて行くべきだからね。
もし良かったら調整させるけど。」
「お願いします。」
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舞姫-06 [シトワイヤン-24]

少年院への訪問が決まるまでに時間は掛からなかった。
和馬さんは、高校生部会がサイトに掲載した『舞姫、高校生と語らう』に目を通した時から、取材も含めて考えていたのかも知れない。
慰問先は女子の為の施設。
疲れない程度の時間、舞を披露し歌を歌わさせて頂いた。
入所者と施設内ではゆっくり話せないので、取材スタッフが探して来た、最近までそこで暮らしていた方々から別の場でお話を伺ってきた。

「万里ちゃん、慰問とかどうだった?」
「施設の中だからかも知れませんが、極、普通の人達でした。
職員の方や最近出所された方々から色々な話を聞かせて頂きましたが、犯罪への道は環境に因る所が大きいのですね。」
「だろうな、何時も万里ちゃんといたら悪い事をしようとは思えないのだがね。」
「そうなのですか?」
「ああ、君の慰問先で取材を続けてるスタッフから報告が入ってね。
舞姫の姿に涙していた連中は、その後、落ち着いて更生プログラムに取り組んでるそうだよ、職員が驚く程にね。
作文では、万里ちゃんをどう表現したら良いのか戸惑ったみたいで、初めて女神様を目にしたと表現し、心が洗われましたと書いた人もいるそうだ。
私達が日頃感じている万里ちゃんのオーラを彼女達も感じたのだろう。
所長さんからは額縁に入れて飾る写真の注文が入ったそうだが、それだけでも異例の事らしい。」
「皆さんは写真撮影そのものが出来ない環境みたいでしたね。」
「万里ちゃん的には普段通りだったの?」
「はい、特別な人達では有りませんので。」
「ねえ、この前、学校の成績は悪くても進路の事は考えてる子の話が出てたよね、彼女たちはどうだと思う?」
「将来の事を考えるのも更生プログラムの一環みたいですので、沢山考えていると思います。
ただ、就職の選択肢は若干狭くなるみたいです。」
「まあ、やむを得ないのだろうね。
ただ、女の子は更生出来る子が少なくないみたいだから周りが気を付けていれば大丈夫なのかな。」
「みたいですね、でも薬物中毒とか、親の虐待からおかしくなる人もいるそうで、中毒から抜け出せなかったり、心の傷が癒されないまま不幸から抜け出せない人もいるそうで。
うんと遠くて現実にそんな事が起きてるのか信じられなかった事の当事者から直接話を聞かせて頂いて、考えさせられました。
ただ、私に話して下さる皆さんは、どこにでもいる穏やかな感じの人達でしたよ。」
「まあ、普段はそうだろうし、万里ちゃんの前なら尚更だろう。
君だって自分に対して悪意を向けられた経験は有るだろ、そんな時の反応が違うんじゃないのかな。」
「えっ? 悪意って?」
「誰かから泣かされたとか。」
「えっと…、喧嘩してる子達は見た事有りますが、一つのレクリエーションですよね。」
「姉妹喧嘩とかはしないの?」
「え~、すると思います?」
「仲が良くてもするものなのだが。」
「そういうレクリエーション、うちでは…、姉はご存じの通り裏表の無い人で、妹ととも…。」
「誰かと喧嘩した事はないの?」
「自分では有りません、姉が男の子たちとやり合うのは見てましたが、じゃれ合ってる様なもので。」
「う~ん、やっぱり君は不思議な子だよ。」
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舞姫-07 [シトワイヤン-24]

少年院を訪問したことで、社会問題に対する向き合い方が自分の中で少し変わった。
犯罪に関わった人との対話から、それまで文字情報としてだけ捉えていた社会問題が身近なものとなった気がしている。
今後は、伝え聞いた話であっても、自分で整理し自分に出来る事を考えて行こうとは思うのだが…。

「ねえ、お姉ちゃんは本間市長を手伝いながら市の問題、社会問題とも向き合って来たのでしょ。」
「そうね、高校を卒業してからは、少し難しい案件にも関わらせて貰ってるわよ。」
「チーム再起動の取り組みは、これからだけど…、私、市民として充分活動出来てないよね。」
「どうしたのかな、珍しく弱気なこと言って。」
「何も知らない私が、過大評価されてる気がして来てさ。」
「知らない?」
「薬物中毒の事とか何も知らなかったの。」
「それは仕方ないわよ、闇を抱えてる人全員を万里が簡単に救える訳ではないでしょ。
それでも、万里は自分の事を過小評価し過ぎてるわね、この瞬間にも世界中で万里の舞姿をDVDで見てる人がいるのよ。
そこから癒しを得ている人達の話はキャッシーから沢山届いているでしょ。」
「そうね、でも、実際のところは良く分からないわ。」
「この間、本間さんと世界情勢の話をしたのだけどね、世界が平和になる事は、各国の利害関係や国民性、主義主張を考えたら有り得ないだろうって。
でも、舞姫が舞姿を披露し続けたら、そんな国際社会でも、ましな状態になるかも知れないと、本間さんは真面目な顔して話して見えたのよ。」
「私にそんな力はないのだけど。」
「どうかしら、舞姫は異例な存在、映像作品が売れまくってるだけでもね。
キャッシーから、ヨーロッパでも噂が広がり始めてるからと、ヨーロッパ旅行の打診が来てたでしょ。」
「うん。」
「舞姫の癒しパワーは歳を重ねれば衰えると勝手に言ってる人がいるけど、今はそれが有ると信じて話してる訳なのよ。
そのパワーを無理のない範囲で世界中に振りまいて欲しいというのが、私達、舞姫騎士団の思いなの。」
「そのパワーというのがね…、まあ、小学生の頃より気持ちを込める様にしてるからか、舞を舞うととても自分のパワーを消耗するのは事実なんだけど。
それで、ヨーロッパ旅行、お姉ちゃんはどうするの?」
「勿論、苗川の魅力を伝える役目を果たしに行くわよ、市民政党若葉や地球市民党が絡んだ話になるからね、万里は気が進まない?」
「そんな事はないけど…、私って…、戸惑いながらがも舞姫を演じて来たのだけど…。」
「キャッシーはね、本当の奇跡を見せて、変態聖職者の宗教に一撃を食らわせてやりたいとか言ってたわよ。」
「え~、何それ。」
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舞姫-08 [シトワイヤン-24]

舞姫と呼ばれることに抵抗感がなくなったのが何時頃なのかは自覚していないが、姫と呼ばれても、自分を変える事はしないでおこうと心に決めたのは覚えている、人から不思議な子と言われていたものの、自分的には普通の小学生だったと思う。
それが、姫と呼ばれることが定着した頃からか、本人は無自覚の無意識なのだが、優雅さが増したと言われる機会が増えた。
まあ、身近に、がさつな人がいる事も関係しているのだろうが。

私の舞は、人に安らぎを与えるという。
小学生の頃、その効果は歳を重ねると共に衰えるだろうという人が少なからずいたそうだが、その予言は外れたようで、姉は最近になって力が増して来てると言うが、実際、映像作品の売れ行きとして如実に現れている。
そのお蔭で、常に新作を求められているのは微妙な話。
作品の制作はスタジオの環境さえ整えてくれれば至って簡単なのだが。
鈴や鼓を持ち、舞う姿を撮影して貰うのが私の役割。
長めの休憩を入れても、半日で撮影終了、後は編集スタッフ任せとなる。
舞は冒頭部分と終了部分のみ定型だが後はすべて即興なので、同じ舞を舞う事は出来ない。
練習は一切しない、ぶっつけ本番、NGなしなのは撮影スタッフにその判断を下せる人がいないからだ。
こうして完成したDVDとかが、世界中で莫大な本数売れている訳で、こんな美味しい商売はないと思う。
ただ、舞をDVD一枚分収録をするとへとへとになる。
舞自体には、早い動きも激しい動きもないのだが…、いやゆっくりだから一切の誤魔化しが効かず、精神的な疲労に繋がっているのかも知れない。
神憑り的と言われ、何者かが乗り移った感覚なのか問われることも有るが、それはない。
表現者として、神から視聴している人へのメッセージを舞で表していると、本人は思っている。
兎に角、作品として残せるものを舞うと体重が減り、しばらく体が重いのが舞の回数を制限している理由で有り、身長が伸びない原因かも知れないと個人的に考えている。

元は神事に由来する舞だが、私にとってのイメージは漠然としていて特別な宗教的意味合いは考えていない。
だが、人の心に影響を与えているという事で、私と私の舞について研究を始めた人達の中には、宗教的なアプローチを試みている人もいる。
何故か信仰の対象とも言える状況になってしまってから、私自身も宗教について考えているが、キリスト教徒で有るところのキャッシーは大いに考えたという。
彼女にとっての信仰は自発的な信仰心によって始まった訳では無く、家庭の環境に由来する。
信仰に厚い人達はそういうものだろう。
キャッシーにとって幼い頃から何の疑いもなかった信仰心が、私の舞を目にして変わったという。
そんなキャッシーも含め、私の周りの人達と宗教について語り合うことが有るのだが、様々な形で信仰されている宗教とはとても不思議な存在だと改めて思う。
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舞姫-09 [シトワイヤン-24]

チーム再起動メンバーとは。

「皆さんは宗教について考えた事、有りますか?」
「えっ、宗教ですか、お葬式や法事の時くらいでしょうか。」
「私、法事の時に神社とお寺の違いが良く分かってなくて、親戚の叔父さんに笑われました。
姫さま、どっちもお賽銭箱が置いてあってお願いするのだから同じ様なものだと思いませんか?」
「そうですね、私は神社のお祭りに関連して舞を舞ったりしてますので多少の理解は有ります。
神様にお願いする神道の神社、釈迦の教えによる仏教。
どちらも宗教ですが、大きく二つの宗教が共存してる国って珍しいのですよ、同じ人が双方にお賽銭を入れてるのですから。」
「葬式仏教という言葉を聞いたことが有ります、死に関連した商売だと揶揄する人もいるのですよね。
葬式はお寺、結婚式は神社とか使い分けているのでしょうか?」
「神社にお願いしても救われなかったから、仏の教えにすがったとか…。」
「自分は仏教の思想を政治利用したと、学習した様な気がします。
しかし、世界三大宗教と言われているものは宗派とかやたら多いですよね。
宗派間の対立が有り、釈迦やキリストは泣いているんじゃないでしょうか。」
「結局は私利私欲の世界だわ、宗教の教えは良く分からないけど。」
「分からないと言えば、宗教上の戒律とかは意味不明です、どうしてそんな定めが有るのか、指導者の気分とかで作られていそうなのも有りますよね。
それを守る守らないと、色々な解釈で争って多くの人を不自由にしていることを考えると、宗教って何? となります。」
「宗教によって安らかな日々を送っている人もいるのでしょうが、自分たちは宗教上の教えというより…、今の日本人って信仰心は弱い気がするけど真面目な人が多いと思います、特に苗川は市民政党若葉が目指している社会、その一員であろうと皆が考えているからかも知れませんが。」
「死後について適当な作り話を聞かせて貰って安心するのが宗教だとしても、生きてる間は社会のルールを守って助け合いながら生きて行けば良いのであって、案外、葬式仏教程度が害もなくて良いのかも、私達には舞姫さまが居て下さいますし。」
「姫さまをお慕いする人達が、世界中に増えてるそうですが、姫さまを中心とした一つの宗教、という捉え方をしても良いのですか?」
「いいえ、そんな話が出た事も有ったのですが、宗教法人を立ち上げる気は有りません。
特定の宗教に属していないからこそ、どんな宗教の方にも受け入れて頂けるのです。
市民政党若葉や地球市民党の象徴という立場は有りますが…。
ただ、社会集団の肩書が政治団体なのか宗教団体なのか…、政治団体で有っても、そこに参加してる人の意識は宗教団体のそれと大差ないかも知れません。
信じるか信じないかの世界だと思いませんか、特定の政治家を妄信している人もいる訳ですので…。
皆さんも私に洗脳されているだけなのかも知れませんよ。」
「う~ん、世界中の人が姫さまに洗脳されたら、世界はもっと平和になるのだろうな…。」
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舞姫-10 [シトワイヤン-24]

少年院訪問の後、本間さんとも相談して苗川市内の社会福祉施設を訪ねている。
社会的弱者の方々と直に交流させて頂くことが目的だが、これが改めて舞姫としての自分を見つめ直す機会となった。

「姫さま、今日は有難う御座いました。
気難しいお年寄りもいますので、館内がこんなにも暖かい雰囲気になったのは初めてなのですよ。
一度も笑顔を見せた事の無い人が微笑んでいたって職員たちも喜んでいました。」

こう語ったのは老人福祉施設の所長。
そう言われても普段を知らないので良く分からないし、そもそも、気難しいお年寄りというのに心当たりはなく、言葉として知っているだけだ。
だが、この施設では、やたら拝まれた。
今までも高齢者から拝まれる事は有ったのだが、施設では高齢者の人数が多いので特に目立ったのかも知れない。
さすがに…、生き神様と言われても実感はないのだが。

盲学校へは少し身構えて訪問した、歌も歌っているが舞姫というのが私の通り名であり、舞は視覚情報だ。
担当者に案内され、数人の生徒が談笑している部屋へ通される。
彼等に私の訪問を事前に伝えないで貰ったのは、自分のコミュニケーション能力を鍛えるつもりだったから。

「先生、耳慣れない足音の人と一緒だけど…。」
「珍しくお客さんなのね、優しい感じ…。」
「あれっ、僕、知ってるよ、鈴の音を鳴らしたり、鼓を叩いたり、お母さんが舞姫さまって教えてくれた。」
「もしかして、舞姫さまがそこにいらっしゃるのですか、私も親がDVDを見てる時に暖かさや優しを感じているのですが、何と言えば良いのか…。」
「俺達の中で一番見える浩二としてはどうなんだ?」
「舞姫さま以外にこんな不思議な人はいないだろ、先生、早く紹介して下さいよ。」
「姫さま、よろしいですか?」
「はい、皆さん、初めまして、舞姫こと鈴木万里です。」
「とりあえず嬉し過ぎて、泣いても良いですか?」
「ふふ、どうして私だと分かったのかな?」
「舞姫さまのDVDは特別なんです、所謂五感とは違うものが…、そうですね、私の場合は暖かく包み込んでくれる波動を感じるのです、今はそれが…、心地良すぎて。」
「姫さまは自分達の為にこの感覚を届けて下さっているのでしょうか?」
「う~ん、困ったな、私はすべての人に幸有れと思っていますが、特別な感覚や感情ではないのです。
何時もと同じ様に皆さんとも親しくなれたら嬉しい、という程度です。
でも、自分は舞という視覚情報によって支持されてるのだと思っていましたので、皆さんのお話は興味深いです。」
「そっか、ご本人も気付いてなかったんだ。」
「ふふ、そうね、私はね、不思議な子と言われてたの…。」

そのまま彼らと話が弾んだのは、私自身良く分かっていない私の力のことが少し知れたから。
彼らが感じているものを教えて貰いながら、ハンディを持って生きている彼らに幸多からん事を心の底から祈っていた。
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