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化け猫亭-07 ブログトップ

水野鈴江-01 [化け猫亭-07]

「初めまして水野鈴江と申します。」
「あっ、新人?」
「はい。」
「俺は初めてじゃないぞ、この前CAT'S TAILにいたよね、可愛い子がにこやかに接客してるな~って印象に残ってるよ。」
「有難う御座います。」
「そうか、掛け持ちなの?」
「CAT'S TAILのスタッフが増えましたので、しばらくは化け猫亭中心になると思います。」
「俺は岩田、こいつは平岩、よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「夜の仕事に抵抗は無かった?」
「CAT'S TAILでも夜に入っていましたので。
尊敬する桜さんの紹介ですし、真面目な企業人から色々学べる環境と理解しています、少し緊張はしていますが。」
「そりゃあそうだろう、岩田は見ての通り恐ろしい男だからな。」
「いや、お前程じゃないと思うぞ。
あっ、来たね。」
「あなた、早かったのね。」
「来たばかりだよ、こちらは新人の水野鈴江さん。」
「よろしくね、岩田の妻よ。」
「よろしくお願いします。」
「そうか、マスターは岩田の嫁さんが来ると見越して新人を送り込んで来たのだな。」
「でしょうね。」
「どういう事ですか?」
「彼女は学生時代、ここのスタッフだったんだ、彼女の紹介が無かったら俺達はこの店には入れなかったのさ。」
「紹介して貰うまで結婚してから三年掛かったがね。」
「どうしてですか?」
「夫で有っても化け猫亭は簡単に紹介出来ないの、優秀さをアピール出来る何かが無いとね、だから課長への昇進祝いのタイミングで、こう見えて真面目で誠実なのよ、この人。」
「こう見えての一言で褒めて貰った事が打ち消されてないか?」
「では、優しいを付け加えて上げましょう。」
「ふふ、仲良しなのですね。」
「水野さん、折角化け猫亭で働くのだから、しっかり学習なさいよ、そして男を見る目も養っておくの。
ここのお客様方は人間的に素敵な方が多いから一つの基準になるのよ。
私は就職してから、色々な人と出会ったけど魅力を感じる人の少なさに幻滅してた、そんな時に出会ったのが彼だったのよ、この人なら化け猫亭のお客になれると感じたわ。
私の目に狂いは無くて今に至る、かな。」
「あっ、ここの会員になるのは簡単では無いのでしたね、会員になりたい人は…、ドラマで見る夜のお店とは全然違うのに。」
「可愛い女子大生とおしゃべりが出来るからでしょ、触ったりしたら退場だけど。」
「それだけじゃないぞ、客同士情報交換出来る事が大きいし真面目な人ばかりだから居心地が良いんだ。
この環境を壊したくないから、紹介する時は皆が慎重になるそうだよ、自分はまだ紹介させて貰った事はないが…、自分のおまけで入れて貰った平岩が心配かな。」
「どこが心配なんだよ。」
「奥さんが妊娠して実家に帰ってる間に浮気とか。」
「しないよ、明日も会いに行くし、今は子どもの誕生をドキドキしながら待ってる。」
「その言葉が本当なら大丈夫かな。」
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水野鈴江-02 [化け猫亭-07]

「少し前に生まれた従妹の子に障害が有ったんだ。
小学生になったらいじめの対象になり兼ねない様なのがね。」
「それは辛いな…。」
「やはり自分の子は五体満足で生まれて欲しいが、その子の良き友人になれる子に育てねばと思っている。」
「平岩、うちの子も、その友達の輪に加われる様に頑張るよ、な。」
「ええ、当たり前でしょ。」
「有難う、従妹にも伝えるよ。」
「あっ、水野さん泣いてるの。」
「私の弟にも障害が有りまして。」
「そうか、御免ね、こんな話をしてしまって。」
「いえ、弟の周りの人達も同じ様に考えていたのだと改めて、弟も親族の愛情に支えられて生きているのだと思います。」
「そうか…、でも、そういう人ばかりでは無いと聞いた事が有る、君は良い環境で育って来たのかな。
どう、弟さんに障害が有ると言う事は君の人生に影響を与えた?」
「そうですね、小さい頃から子どもながらに色々考えました。
家の手伝いをする、親の負担になる事はしない、学習には真面目に取り組む、弟がいたから今の大学に合格出来たのかも知れません。」
「なるほど、桜さんが認める素敵な女性だという事がよく分かったよ。」
「まだまだです。」
「水野さん、学部は?」
「教育学部です、学校教育ではなく発達関係のコースですが。」
「私の後輩か、マスターは覚えてたのね、化け猫亭の事や進路の事で何か有ったら相談に乗るわよ、連絡先交換する?」
「是非、お願いします。」
「桜さんも知ってたのかな。」
「彼女なら有り得るわね、この前CAT'S TAILで会った時に時間に余裕が有るかどうか聞いて来たから。
多分水野さんの事を考えていたのだと思うわ。
後輩の面倒を見るのが私の趣味だって知ってるし。」
「桜さんはそこまで私の事を…。」
「なに、君だけじゃないさ、彼女の頭の中にはCAT'S TAILスタッフの情報がしっかり入ってると思うよ、化け猫亭の客達のもね。」
「こうして四人で話してるのは桜さんによって仕組まれた事かも知れない、でも、水野さんと出会えて嬉しいよ。」
「化け猫の魔力で人が引き寄せられ出会うのよね。」
「えっ、化け猫亭の由来はそういう事なのですか?」
「それが、分かんないの、マスターは絶対教えてくれないから、私達で後付けって感じなのよ。
どう、本当の所を聞き出せたら、貴女には勇者の称号を授けるけど。」
「私には無理そうです…。」
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水野鈴江-03 [化け猫亭-07]

「初めまして水野鈴江と申します。」
「新人なんだ。」
「はい、よろしくお願いします。」
「ここのスタッフには人を見る目が必要なんだよ、さあ、ずばり私の年齢は?」
「そうですね、三十から五十歳の間です。」
「はは、正解、神田の負けだな、私は内山、よろしくね。」
「どこが正解なんだ?」
「間違ってないだろ。」
「三十代に見える四十代後半が俺の売りなんだぞ、アバウトな解答にしても、五十迄含めるのは保険を掛け過ぎじゃないか。」
「三十を含めてくれた事を喜べよ、水野さんは実際どう捉えてたの?」
「神田さんの年齢はどうでも良い事ですが、質問なさったという事から実年齢は見た目より上、三十歳を含める事でご機嫌を取りつつ、五十歳を含める事で、これからの会話の流れをと。」
「うっ、小夜ちゃんの匂いがする。」
「すご~い、正解です、彼女からは色々教えて頂いてます。」
「はは、落としてから、褒めるというテクか、小夜ちゃんがスタッフになってからみんなの話がこなれて来たと思うね、以前は遠慮がちだったのが一歩踏み込んでくれる様になって、神田はいじられたいタイプだから遠慮なく弄んでやってくれな。」
「いえいえ、まだ修業が足りませんので。」
「いや、俺は負けないからな…、ねえ、水野さんは濱田祐太郎って知ってる?」
「え~っと、もしかして盲目の方ですか?」
「うん。」
「その人なら知っています、ベテランと比べると、まだどうかなって感じでしたが。」
「確かに大会で優勝した頃はそうだったかも、でもそれから仕事が増えた事によってかトークスキルが上がっていると思う、この前聞いたラジオ番組ではベテランにも突っ込んで行くし、話のリズムが良くなってて面白かった、カンペが読めないからテレビ番組のMCは無理だろうが、もっと活躍の場を広げて欲しいと思うんだ。」
「私も注目してみます。」
「しかし、生まれながらだから盲目を受け入れるしか無かったのだろうが、自分が事故とかで盲目になったら絶望するね。
視覚は五感の中で一番失いたくないと思うよ。」
「だよな、聴覚も好きな音楽が聞けなくなって辛いと思うが。」
「あっ、水野さんには嫌な話だったかな…。」
「いえ、聴覚障害の有る人と結婚した人の事を思い出しまして…、相手の女性は近い内に視力も失うと分かってた上で…。」
「重複障害か…、視力と聴覚を失うとコミュニケーション的にかなりきついな。」
「知り合いなの?」
「いえ、直接では有りません、伯父が大学時代のゼミにすごく良い奴がいたと話してくれまして、伯父自身、彼の事を思い出す度、胸が熱くなるそうです。
愛と覚悟の大きさを感じませんか。
あっ、御免なさい、暗い話をしてしまって。」
「いや、気にしないで、視覚障害の話を振ったのは俺だし、その人の事をもっと知りたいよ。
何か情報は無いのかな?」
「伯父に聞いてみます。」
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水野鈴江-04 [化け猫亭-07]

「こう見えて神田は手話が出来るんだぜ。」
「あっ、私も一通りは。」
「そうなのか、では…。」

「おいおい、俺を仲間外れにして二人の世界に浸るのはよしてくれよ。」
「御免なさい、つい。」
「今日ほど手話が役に立った事はなかったかも。」
「だめです、ちゃんと真面目に役立てて下さい。」
「はは、真面目な活動もしているが、草野球の時にも使ったりしてね。」
「そんな使い方も…。」
「そしたら相手チームにも分かる奴がいて情報は筒抜けさ。」
「ふふ。」
「水野さんには面白い話ないの?」
「手話で愛の告白をしてる人を偶然見かけた事が有ります、その時は見ていてかなりドキドキしました。
男性のプロポーズを女性がすぐには受けなかったのですよ。
結局婚約は成立したみたいだったのですが、その時点で私の遅刻が確定していました。
公衆の面前、通学の時間帯にそういうイベントは遠慮して欲しかったですね。」
「はは、それは迷惑だったな。」
「つい見てしまったのは、男性の手話が広い会場でも通用する見易い手話だった事と女性の自信なげな表情で。
おそらく男性は聞こえる人、女性は…、なんて事を考えていました。」
「どういう事?」
「身近な人としか手話で対話しない人は動きが小さいのですが、ホールでの手話通訳は大きく分かり易くが原則なのです。
神田さんも私もそういうトレーニングをしています。」
「そうか、その男性は覚悟を決めたんだ。」
「聴覚障害者同士の結婚は結構有る、女性側は相手の事を考えて身を引こうと思ったのかもな。」
「はい、幸せになって欲しいと、心の底から思いました。」
「なるほどね。」
「水野さんは、離れた状態での対話練習してる?」
「はい、ホールでの手話通訳を意識していますので、この前は名古屋ドームの一塁側と三塁側で広島ファンの友人と、ちょっとしたバトルを静かに繰り広げてみました。」
「はは、結果はどうだったの?」
「試合は広島に負けてしまいましたが、友達との絆は深まった気がします。
携帯を使わずに離れた状態でも、互いの姿が確認出来ればメッセージを送れるのですよ、交わしてる内容は他愛のない事でしたが、楽しかったです。」
「へ~。」
「手話は聴覚障害者の為に発展したのだけど、違う可能性も秘めているんだ。
俺達はボランティア活動に従事しながら楽しんでもいるのさ。」
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水野鈴江-05 [化け猫亭-07]

「深沢さん、こんばんわ。」
「おっ、覚えていてくれたか、鈴江ちゃんは店に慣れた?」
「はい、少しずつ…、深沢さん、お疲れですか?」
「昨日、山歩きに行って来た影響だから心配いらないよ。」
「無理はなさらないで下さいね。」
「大丈夫、まだまだ若いもんには負けられない。」
「深沢さん、私の知り合いに福祉系の大学を出た人がいるのですが、彼女から教えられた話しで印象に残っているのが有りまして、聞いて頂けます?」
「うん、どんな?」
「大学に入学してしばらくした頃、大学のプログラムとしてキャンプに行ったそうなのです。
そのキャンプでは軽い山登りをしたのですが、その時にされた注意が、絶対に頑張らない、頑張らせないという事だったのです。」
「また、生ぬるい山登りだね。」
「その大学には障害の有る人も普通に入学するのですが、過去に、体が丈夫では無いのに仲間が出来た高揚感から頑張ってしまい、周りも励ましてしまい、その結果体調を大きく崩し長期休学になってしまった人がいたのです。」
「それは、辛いな…。」
「深沢さんはご自身の体調を冷静にみられる方だと思いますが、もう、体力面では若者に負けても良いのではないですか。
勿論、気持ちで負けては老け込んでしまいます、私達若造を厳しく指導しながら、体調には気を付けて頂きたいです。」
「まいったな、孫から説教された気分だが、会うのが二度目の鈴江ちゃんに、疲れを見抜かれては反論出来ない、気を付けるよ。」
「生意気言って御免なさい、深沢さんは大事なお客様ですので。
ですが…、お疲れ気味でのご来店には何か訳が有るのですか?」
「久しぶりに会う約束が有ってな、もう直ぐ来る筈なのだが…。」
「あっ、車椅子の方が、失礼します。」

「嬉しいね、孫同伴だから気にしなくて良いのに、可愛い子達が気を使ってくれて、深沢、良い店だな。」
「だろ、この子は水野鈴江さん、新人だがしっかりした子だよ。」
「よろしくな、儂は高松幸太郎、これは孫の加奈、二十歳になったばかりだが近くの大学に通っているんだ。」
「よろしくお願いします、水野さんは大学で何度かお見かけした事が有ります。」
「ですよね、加奈さんはお綺麗だから、つい目が行ってしまいます。」
「顔は知っていても話した事は無かったのか?」
「はい、きっかけが有りませんとなかなか親しくなれません。
お久しぶりという事ですので私は席を外しましょうか?」
「いや、出来れば一緒に、加奈もいるからな。」
「分かりました。」
「高松は車椅子生活始めてから何年になる?」
「加奈が生まれる少し前だから二十年を越えたな。
事故で歩けなくなると分かった頃に加奈が生まれて元気づけられた、せめて加奈が二十歳になるまではと頑張って来たよ。
孫に甘いお爺ちゃんで、息子達には甘やかし過ぎるなと随分怒られたがな。」
「はは、加奈さんとは、たまにしか会って来なかったから会う度にその成長を感じてたよ、素敵な女性になったね。」
「まだまだです。」
「加奈さん、今時の女子大生が気になってる事ってなんだい?」
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水野鈴江-06 [化け猫亭-07]

「私の専門では無いのですが、学校事故や教員の待遇改善に興味が有ります。
うちの准教授がマスコミに取り上げられる事が有って、ずっと見て来ました。
今は、少しずつ改善の兆しが見られます。」
「内田良先生かな?」
「はい、情報発信する事によって、多くの人が問題を知り、その本質を考えるなるきっかけを作った。
その事で、長期間放置されていた問題が国や自治体を動かし始め、改善の方向に向かってる事に驚いています。
まだ始まったばかりですし、勿論、内田先生お一人の力では有りませんが。」
「鈴江ちゃんは知ってた?」
「勿論です、うちの先生ですので、内田先生のSNSを拝見させて頂くと先は長いのかと感じてしまいますが、少なくとも前向きに動き始めているのは事実だと思います。」
「アンチがいそうだがどう?」
「髪の毛の色とかですね、先生の本意は分かりませんが、アンチでも問題に目を向けるきっかけとなればプラスになります、もっと目立って頂きたいですね。
小学校の運動会でただの小学生がサーカスまがいの事をさせられていたのが少しマシになったり、部活が生徒にとっても教師にとっても如何に負担なのかといった、今まで見過ごされて来た問題に光を当てた功績は大きいと思います。」
「うん、学校の事情なんて何か大きな問題が起きないと見えないからな。
私も、多忙でブラック企業並みの労働条件で働く教師の事には注視して来なかったよ。」
「大変ですよね、モンスターペアレンツの相手をしながら、いじめの問題に取り組んで、部活の指導、授業は塾がカバーしてくれるぐらいに考えないとやってけない人がいてもおかしく無いです。」
「だろうな、学園物のドラマで教師に憧れて、なってみてからギャップに気付かされるというパターンも多かったそうだ。」
「そんなに酷いのか?」
「彼女達の話に付け加えるなら、小学校ではコンピューター関連の取り組みや英語の授業が増えているんだ、若手は何とかなっても、ベテランにとっての負担は想像出来るだろ。」
「そうか、学校事故の方は自分が車椅子生活だから気に止めていたが…、一般企業の求人が増えてる状態では、教員のレベル低下は避けられそうにないな。
だから私立にとなるのかな?」
「東京と違って、名古屋は私立小学校少ないです、私の時にはその選択肢が無かったと聞いています。
でも、私が通った小中学校では特に目立った問題を感じませんでした。
この前、中学の同窓会に先生が来て下さったのですが、荒れて無かったし運動部が強い訳でも無かったので、教師人生の中で最も楽しかったと話して下さいました。」
「そういう学校を意識して、あそこに家を建てたのだからな、加奈が生まれる前から色々考えていたんだよ。
ここの近くにして置けば大学に通うのも、もっと楽だったかも知れないが。」
「全然大丈夫、気候の良い時は歩いたり走ったり自転車だったり、近過ぎるとトレーニングにならないでしょ、と言っても大した距離では無いのだけど。」
「高松家の判断は正しかった訳だ、ここのスタッフには小学校から大学まで、すべて徒歩で通える所を選択した子がいますよ。」
「ねえ水野さん、化け猫亭の事は、深沢さんからお爺ちゃん経由で少し教えて頂いたの、詳しく教えて頂く事は出来ないかしら。」
「そうですね…、少し待ってて下さい、今ならマスターから直接説明して貰えるかも知れません。」
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水野鈴江-07 [化け猫亭-07]

「高松、加奈ちゃんはここのスタッフになりたいのか?」
「ああ、三年生になって視野を広げる必要を感じてると話していたんだ。
それで深沢から聞いていたこの店の事を思い出してな、今日は無理なお願いを聞いてくれて有難う。」
「いやいや、全然無理じゃない、外では飲まない高松も、加奈ちゃんがスタッフになったら気軽に来いよ。」
「そうだな、この雰囲気なら息子達も連れて来たいが、難しいか?」
「いや、スタッフを始める事になったら、出来れば親に来店して欲しいというのがマスターの方針なんだ。
成人してるとはいえ学生という立場だろ、娘がどういう店で働いているのか知ってて欲しいのさ。」
「会員制だから、その時だけか?」
「まあ、希望して条件が合えば会員になれる。
親の方が店への出勤回数が多いと笑った事も有るし、娘が卒業してからずっと通ってる奴もいるんだ。
家族で結婚報告しに来た子がいたし、雨で暇そうな日は元スタッフ達が集まったりする。」
「お気に入りの訳が良く分かったよ。
なあ、久しぶりに会うが急に老け込んで無いか?」
「いや、今日はな、山歩きの疲れが少し残ってるだけだ、鈴江ちゃんにも無理するなと説教されたから気を付けないといけないが。」
「髪の毛も十本ぐらい減っただろ、お互い若く無いないが…、会長職はまだ続けるのか?」
「まあ、名前だけだからね、社長に問題は無い、一通り経営状況を確認するのはボケ防止の意味合いがメインで、娘婿は理解してくれてるよ、お主はどうなんだ?」
「そういう考え方が有るのか、息子は儂が引退しても、福祉団体への寄付は続けると話してくれたから少し迷っていたんだ、ボケ防止と伝えて続けるべきかもな。」
「お互い苦しい時も有ったが何とかやって来た。」
「ああ。」
「何か感慨に浸っておられたのですか?」
「ああ、鈴江ちゃんがいないと寂しいなってね。」
「ふふ、お上手なんだから。」
「加奈はどうだ?」
「マスターにお任せして来ました。
女性の私でも憧れる美貌、気になってる事として社会問題を語る人です、深沢さんの紹介と伝えておきましたので、マスターにお断りする理由は有りません。
今は、学生主体の新たな事業計画もありますので。」
「高松、CAT'S TAILというたこ焼き屋さんを学生達が運営してるんだ。」
「あん、たこ焼き屋さんでは有りませんよ~、和洋のスイーツが楽しめる甘味処なのです。」
「そうなのか、ここで、たこ焼きのお裾分けを頂くから、たこ焼き屋だと思っていた。」
「高松さん、スタッフは主に周辺大学の学生で構成されている連合軍なのですが『就職前に経験して置きたい事』をキャッチフレーズに活動の幅を広げようとしているのです。
加奈さんが化け猫亭のスタッフにならなかったとしても、情報交換して行きますので教えて貰って下さいね。」
「ああ、面白そうだな、うん、今時の若いもんはしっかりしとる。
事業を拡大し自らの就職先にとかも考えているのか?」
「いえ、正社員はリーダーだけの方向性です。
あくまでも学生が実習を兼ねて運営し、次の代へ引き継いでいく事を理想と考えています。
どうしても学生だけで回らない所が出てきたら、そこは学生からではなく外部からと言われています。」
「あくまでも、就職前の経験という事か…。」
「ただ、化け猫亭のスタッフには起業を考えてる人もいまして、影響されている人もいます、今後の展開はまだ分かりません。」
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水野鈴江-08 [化け猫亭-07]

「起業を目指す大学生とは頼もしいね。」
「頭の良い人で同学年ですが色々教えて貰ってます、今、あそこで将棋を指していますよ。」
「おっ、ここは将棋が指せるのか。」
「高松、小夜ちゃんっていうのだが、天才レベルなんだよ、ここのスタッフは頭の良い子ばかりなのだがね。
将棋は覚えたてだから、勝つなら今しかないと、おじさん達が相手をしてる、教えてるアマ有段者に言わせると一局指す毎に強くなってるそうだよ。」
「儂も手合わせして欲しいものだな。」
「早指しで良ければ、鈴江ちゃん、どうだろう?」
「聞いて来ます。」
「深沢は対局した事有るのか?」
「ああ、その時は普通に勝てたのだが、この前見てたら角や桂馬の使い方が上手くなってた。
高松の棋力でも油断してたら…、綺麗な子だからといって見とれてると負けるぞ。」

「高松さん、次にどうぞという事です。」
「鈴江ちゃん有難うね、今の対局料は幾らになった?」
「二万円です、ニ十勝五十三敗だそうで。」
「早指しとはいえ、もうそんなに対局していたのか、まあ、始めの頃は小夜ちゃんが簡単に負けていたからな、俺と対局した時に三千円だった事を考えると、弱い奴らが負け過ぎたな。」
「どういうシステムなんだ?」
「賭け将棋はマズイし、店で将棋を指していたら売り上げに影響しかねないという事で、客とマスターが相談して決めたんだ、小夜ちゃんと対局する時は対局料を店に払うと。
そこにゲーム性を加えてな、対局料は無料から始まって小夜ちゃんが一勝する毎に千円アップするシステム、客は負けると他の客から恨まれるから真剣に指す事になる。
勝てると思って挑んだ奴がすでに二十人負かされたと言う訳なんだ。」
「絶対負けられないな。」
「まあ俺としては、対局料が上がれば対局数が減る、小夜ちゃんと会話出来る機会が増えるから問題ないがな。
客同士の対局ルールはまだ検討中という段階で、今後どうなるか、成り行き次第の一面は有る。」
「高松さんはこの近くに、大人がゆっくり将棋を指せるサロンが有ったら利用されますか?」
「鈴江ちゃん、そういう計画が有るの?」
「今は経営的に成り立つ形をリサーチしながら検討という段階です。」
「そうか、柄の悪い奴を入店禁止に出来るのなら資金を出しても良いかな。」
「マナーの問題ですか、私は将棋をされるお客様の多さに驚いています、企業で成功される方は趣味も違うという事なのでしょうか。」
「それは有るだろうな、儂が子どもだった頃の遊びは将棋、学生時代は麻雀、遊びを通して頭のトレーニングをして来たのだよ、今のゲーム事情は分からないが。」

「私に教えて下さる方はこちらですか?」
「ああ、小夜ちゃん、俺の友人で高松だ、よろしくな。」
「よろしくお願いします。」
「では…。」
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水野鈴江-09 [化け猫亭-07]

「負けました。
まいったな、角の存在を失念してた、君は将棋を始めて間が無いんだって?」
「はい、必死に考えてなんとか勝たせて頂きましたが、高松さんは深沢さんと指される事、多いのですか?」
「そうだね、結構指して来たかな。」
「先日、深沢さんに教えて頂いた形と似ていましたので。」
「それは偶然だと思うが…、儂の場合は対局相手が限られるので似たのかもな。
で、角をこの位置に置いたのは終盤の狙い有っての事だったの?」
「はい、早指しなので、他に意識が行くと忘れてしまいそうな場所ではないですか。」
「お主、なかなかやるな、では…。」

「深沢さん、高松さんは負けたのに嬉しそうですね。」
「だな、結構良い勝負になっての負けでも、相手が小夜ちゃんだから、今まで見た事無いぐらい楽しそうだ。」
「将棋の対局が接客として成り立っているのですね。」
「接待将棋か…。」
「ゴルフの接待ではわざと負けるとか聞いた事が有りますが実際はどうなのです?」
「人それぞれで色々なパターンが有るから一概に言えないよ、兎に角自分が勝てれば良いという人が居れば、全力の勝負をしたい人もいる、変に手加減する人は信用できないという人だっているんだ。
なあ、今時の大学生は将棋を指さないのか?」
「藤井七段が活躍し始めてから、ネット将棋をやってるという話を男子学生から聞くようになりました、それまでは話題にもなりませんでしたが。」
「そうか、それなら今の将棋ブームは、指さない人が消えても、それなりに続くのかな、俺の周りでは続かせるが。」
「何か企みが有るのですか?」
「まず、将棋を趣味にしている社員と対局する。」
「社員の方にとって会長と将棋って楽しく無いと思います、その…、勝って良いのか迷ったりして…。」
「そこだよ、相手が誰だろうが真剣に勝とうとする人物を見つけたいのさ。」
「将棋をやってない人はどうなさるのです?」
「そこは社長に委ねる。」
「単に、将棋を指す相手が欲しいだけなのでは有りませんか?」
「いやいや、娘婿と社内将棋大会を考えているんだ、今なら提案し易いだろ。」
「ブームを利用して自分達の趣味を、会長、社長の特権ですか?」
「まあな、そこに学生の参加が有ればと考えていたんだ。
将棋の強い学生なら考える力が有る、そんな学生との関係を深めて、是非我が社へとね。」
「下心満載でしたか、深沢さんは思考力を重視されているのですね。」
「ああ、優秀さの目安として暗記力をイメージする人もいるが、その暗記した情報から類推し思考出来なければ意味は無いんだよ。」
「確かにそうです、私は考えてるつもりでも…、理系の人には全然負けている気がします。」
「分野が違うと使ってる脳の部分も違うのかな。」
「あっ、それは有るかも知れません、人間の脳って使われてない領域が多いと聞いた事が有りますし。」
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水野鈴江-10 [化け猫亭-07]

「記憶に関して、人間の脳は凄いと思うよ、ちょっとしたきっかけで色々思い出すだろ。
まあ最近は思い出したい事がすぐには出て来なくなって来たのだが、それでも三十年前に訪れた地へ行けば先回訪問時の事が頭に浮かぶ、その時聞いていたラジオの内容とか些細な事もな。」
「そんなに前の事もですか、でも記憶というのはデータバンクであって思考とは違うのですよね…。
AIは思考をするのでしょうか?」
「将棋ソフトは膨大な量のデータを元に膨大な量の計算を繰り返して、その時点で最善と考えられる一手を導き出すと聞いた事が有る、人間の脳も多くの可能性の中から選ぶと言う作業を瞬時に行っているのかもしれないね。
今だって鈴江ちゃんに伝えたいと思う事を過去のデータから判断して口にしている訳だから。
AIと違って感情という変数の存在が人とAIの違いだと思うが、ある意味AIは思考しているのだろうね。
でもAIでも計算時間によっては迷う事が有るんだ。」
「迷う?」
「先々の可能性を計算して行く過程で最善に近い手が複数存在しても不思議では無いからな。」
「確実に一つの答えを出すという感じでは無いのですね。」
「ああ、演算速度が今より早くなったら分からないが。
そうそう、デジタルの象徴、パソコンだって使い始めた頃は結構アナログだと感じていたよ。
バグが有ったりして、同じ操作をしている筈なのに機嫌が悪くなるんだ。
困る事なのだが、それを解決するのは面白くも有った。」
「そうですね、日本語がパソコンに向いて無いからでしょうが、文章読み上げ時の誤読ミスは笑えます、入力時の変換ミスは人間側の問題ですが。」
「最強のコンピューターとAIを使えば、かなり減らせるだろうが…、昔、翻訳ソフトは辞書を鍛えれば精度が上がると聞いた事が有る。
えっと…、自分用にカスタマイズして行くという感覚なのかな。」
「手間が掛かるのですね。」
「基本的な文法が英語と日本語で違うから簡単では無いし、同じ単語や漢字に複数の意味が有る時点で、読み上げや翻訳の精度を上げるのは簡単では無いという事だな。」
「たしかにネットで簡単に使える翻訳機能はかなり雑です。」
「そうだな、AIを利用するにしても、子どもと同じで育てる必要が有る、誤読、誤訳を指摘する事でAIは学んで行くんだ。
読み上げなら、前後の文脈から正解を導き出し誤読を減らす事は可能だと思う、それなりのコンピューターと手間を掛ければね。」
「将棋ソフトに人は勝てなくなったと聞きましたが、他の分野ではどうなのでしょう?」
「初めから勝負を前提としていないからね、先の事は分からないが、今は人間がきっかけを作ってAIに学習をさせ計算をさせ、その結果に基づいて人間が判断をしている。
我が社では、高性能なコンピューターは導入してないが、コンピュータを利用してデータ分析した結果を経営に活かしている、でも、まだまだ判断を下すのは人間、だから優秀な人材が欲しいのさ。
その人達に、自分達が築き上げて来たものをきちんと引き継いで後を任せたい。
AIに支配される様な社会は考えたくないからね。」
「ですよね。」
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