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地方支部-01 [シトワイヤン-10]

イベント後も、党員は増え続け党支部が幾つも設立されているが、どこもが順調とは言い難い。
今後の選挙を考えると全ての市町村に党支部が存在するのが理想だが、リーダーがいないとまとまらないのだ。
現役地方議員でも、党員による信任投票で市民政党若葉の所属議員として信任されなかった人もいて、議員の資質など色々考えさせられた。
そんな中、考える党員、動ける党員といった、党員をその立ち位置によって分類する案が出されたのだが、そこから一気に広がったのは…。

「党を暖かく見守る党員と、党を生暖かく見守る党員ってどう違うのかしら、一票を投じる党員というのは選挙時だけ協力しますという感じで分かり易いのだけど。」

今日は三人でドライブ、俺が土地購入を検討している高原までは二時間程度の道のり。
その車内で話題になってるのは党員としての二つ名?
「歌って踊れる学生党員、家計が苦しい主婦党員、彼女募集中二十八歳真面目な党員だと、文字数制限と詐欺や勧誘の被害に合わない様に注意喚起が必要そうだな。」
「うん、党員は誰でもなれる、人間は法が無かったら好き放題、法が有るからこっそりやってる人も党員には沢山居そうだもの、でも、本来は党に対するスタンスを明確にする事が目的だったのよね。」
「ネット上では積極的に意見を出したいけど党の集まりにはあまり参加したくないとか、党のイベントが有るなら動きます、お祭り大好きです、みたいな感じからかな。」
「盛り上がっているのですから良いでは有りませんか、党員になっても党員意識を持つ機会の無い人にとって、良いお遊びです。
康太大好き党員みたいな方が継続的に楽しめるイベントが有れば、Citoyenブランドの売り上げに繋がります。」
「だよな、何もないと党員登録した事すら忘れさられてしまいかねない。」
「一応、毎日何かしらのニュースが発表されてはいるのだけど、地方発のニュースは似たものになってしまうのよね。」
「そう考えると、言葉遊びでも貴重なのかも知れません、氷の女子大生党員は徐々に浸透しています。」
「それなら、氷の女子大生党員ドライブ中、みたいな使い方も出来そうだね。
まあ、当初の意図は党支部で活動しても良いです宣言みたいなもので、その結果支部のスタッフが集まり始めたとは聞いてるが。」
「ネット上にスタッフは集まっても、リーダーがいなくてという地域が有るのよね。」
「それは仕方無いだろう、余力の有る他地区の人が手伝って党支部を発足させても、結局そこから進まないと思うよ。」
「おお。」
「清香、どうした?」
「SNSに氷の女子大生党員ドライブ中、と上げてみたら凄い勢いで質問が来ています、久々でしたので。」
「どんな質問?」
「誰と何処へ何をしにがメインですが、ふふ、同乗者に関してはすでに正解者多数です、私達が使用している車の情報もすでに広がっているのですね、あらっ、誰が運転してるのかについては…、私だって免許を持っていますのに。」
「清香には運転してるイメージがないのだろうな、愛華より器用なのに。」
「所詮私は高速道路担当で~す、車が色々勝手にやってくれてま~すよ~。」
「高速は余り好きでは有りません、愛華とは何となく役割分担されていますが、地方支部の立ち上げに時間の掛かっている所では、こういった役割分担さえ難しいのでしょうか?」
「ネット上での初対面から始まり、距離を縮めてからオフ会みたいな事になるのでしょ。
全くの他人、利害関係の分からない状況からのスタートはリーダーがいないと難しいと思うわ。」

地域政党の様な母体の有った所と無かった所では大きな差が有る。
母体の有った所は、市民政党を利用してどうしたいのかが見えてるが、リーダーのいない党員だけのエリアでは話が進まない。
勿論、党員だけでスタートしても、優秀な支部長を中心に盛り上がっているエリアも有る。
今向かっているのはそんな町だ。
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地方支部-02 [シトワイヤン-10]

途中、高速道路のパーキングエリアに立ち寄ったのだが。

「残念だったな清香、で、かき氷とフラッペはどう違うんだ?」
「お店がメニューにかき氷として載せていればかき氷、フラッペとしていたら、という程度です。」
「氷の女子大生党員を名乗ってるのは、かき氷が好きなだけだとバレてないのか?」
「炎の女子大生党員愛華が焼肉をイメージして炎にしたというのと同様、黙っていれば分かりません、皆さんには邪推を楽しんで頂くのが一番です、でも、和馬は元代表という肩書が定着しそうです。」
「党大会でも現代表以上に目立ってたものね、影響力も大きいし、でも、今度の党首選で選ばれる人には和馬以上に目立って頂かないと駄目よね。」
「だな、党大会のタイミングで国会議員が更に寝返って下さり国政政党となった、すぐにとは行かなくても政権政党を目指すしかない、となれば党首は総理大臣候補だからな。」
「党首が決まったら、代表は幹事長に、代表のいない組織の元代表という肩書は…、ふふ、いとおかしです。」
「肩書関係なく党の顔ということもね。」
「君達だって党の顔だろ?」
「私達は、お飾りに過ぎません。」
「愛華は飾り物に甘んじることなく国会議員を目指すとか考えてないのか?」
「上を目指すなら社長業、国会での質疑なんて…、和馬には、無駄だらけで国家予算を浪費している国会の委員会や本会議を、もう少しまともな形に出来る案はないのですか?」
「そうだな…、大臣含め、議員の有り方を根本から変えたいとは思うが…、国民に選ばれた人達のやってることだろ。」
「まずは、市民政党が国政選挙で勝てる体制が必要です。
でも、地道に地方支部の充実を目指している間に、市民政党若葉も既存の政党と同じ様な政党になってしまわないか心配です。」
「確かに人の心は移ろい易いからな、党員に見える場での討論が維持出来るかどうかに掛かってる気がするが、まだ見えてない問題が出て来るだろうし。」
「党大会では、とことん選挙に勝って行くしかないという雰囲気になってたわね。」
「今の党勢拡大を中途半端なブームで終わらせず、結果を出して更に盛り上げる事が出来ればと思うが。」
「問題は、どれだけ世間にインパクトを与えられるかです、地道ではなく党を一気に盛り上げることを成功させたいですが、思い通りに行くのかどうか…。」
「目標は過半数を制する事、道のりは遠いけど時間が掛かり過ぎてはだめ、まずは駄目元でやるしかないのよ。」

党を盛り上げるべく、各地で色々と進行中では有るが目標は政権与党、どう考えても簡単なことでは無い。
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地方支部-03 [シトワイヤン-10]

ドライブの目的地は苗川市、人口三万人程度の地方都市だ。
今日は党員集会が開かれているのだが、俺達の訪問は参加者の方には内緒。
手伝いに来ている学生が俺達直のスタッフだという事も伏せられていた。
という事で、俺達の登場に会場の皆さんは熱烈に盛り上がって下さり、サプライズ登場成功。

「遠路ようこそ…。」
とこの地の支部長、本間さんに迎えられた後は、そのまま仮設舞台上での対談となった。
「本間さん、こんなに大きな党員集会だとは思っていませんでした。」
「それだけ、市政に対する不満や疑念、市長や市議会に対する疑惑が有るのです。」
「これからの動きはどうなるのですか?」
「市長のリコールから市長選という流れになります、我々の力でリコールを成立させ、その勢いで市長選勝利、更にその後をと見据えています。
市民政党若葉としては、初の市長選になりそうですので注目していて下さい。」
「選挙当選後に色々発覚ですものね、すでに有権者三分の一の署名は集まったのですか?」
「ええ、今日の仮集計で充分な数だと確認出来ています、すぐに手続きしますので間もなく住民投票の日程が決まります。
人口三万の市で市民政党若葉の党員が一万五千人を越えたのは市民の怒りの現れ、悪役がいると盛り上がります。」
「今日の党員集会は住民投票や市長選に向けてのものなのですね?」
「はい、署名の確認作業に始まり、党支部幹部の紹介、今後の流れを確認し、今は地区毎に分かれて党員以外へのアピールを相談していた所です。」
「ひょっとしてお邪魔でしたか?」
「とんでもない、お三方のサプライズ登場により、我々の結束が一段と強まりました。
それで、お礼と言ってはなんですが、瀬田元代表の為にこの地を用意させて頂きました、十万円で如何です?」
「えっ、この広場ですか、土地を購入したいとは伝えましたが、今日は耕作放棄地などの候補地を見させて頂くつもりだったのですが。」
「瀬田さんが土地を確保してどう使いたいのか、を党員に伝えさせて頂いた所、引き取ってくれるのなら金は要らない、瀬田さんがこの地の事を考えての事なら、聖地の整地ぐらい儲けなしでやってやる、という太っ腹な奴もいましてね。」
「それでこの広さですか…。」
「勿論駐車スペースもですが、周辺の森もお望みならばお付けしますよ。」
「はは、凄い台数が駐車されていましたが…、言われてみれば自分達が希望していた条件が揃っています、なあ、清香?」
「ふふ、サプライズを返されてしまいました。
本間さんのお気持ちが変わらない内に、でも現金はあまり持っておりません。
愛華、スタッフの皆さんからお借り出来るでしょうか?」
「う~ん、それより和馬のジャケットとかをオークションでってどう?」
「いやいや、着ている物が全部売れたとしても十万にはならないだろ?」
「そのジャケットに五万!」
「六万!」
「サインしてくれたら十万!」
「現金持って来れば良かった~。」
「十五万!」
「売った!」
「愛華…。」
「和馬ジャケット脱いで、お客さま、サインはどんな感じが宜しいですか?」
「背中に大きく三人のサインをお願いします、お写真も宜しいでしょうか?」
「構いませんが、SNSとかへのUPは党員集会終了後に願います。」
「あっ、分かりました。」

商談成立。
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地方支部-04 [シトワイヤン-10]

ジャケット一枚を売って手に入れた土地の広さは、過疎の問題と共に支部の盛り上がりを感じさせてくれる。
このサプライズは本間さんの指示で進められていたそうで、俺が買わなくても党支部で活かせると判断していたそうだ。
整地に十万円以上のお金が掛かってる事は明白だったがそこには触れずに。

「過疎の問題はこれだけの土地が有っても、それが活かされないということなのですね。」
「それでも、瀬田さんが使われていない土地を遊びながら活用したいと提案して下さったからこそ、この広場が出現したのです、切っ掛けが無いと人は動かないのですよ。
そして、荒れた土地を整地してみて、ここに新たな可能性を考えてるのは自分だけではないのです。」
「そんな土地を私に譲ってしまって良かったのですか?」
「ここみたいな土地はまだまだ有ります、瀬田さんがこの地でどう遊ぶかによってその使い道が変わるのですよ。」
「その辺りが、企業を再生して来られた本間さんの発想なのですね。」
「まあ、ここをどう使うのか少し具体的に教えて下さい。」
「色々な案が有るのですが、まずは、村の設計図を募集するところから始めます、それから村が少しずつ完成して行く様子を皆さんに見て頂きます。
祠を建て小さな女神像を祀り賽銭箱を置いて、どれぐらい寄付が集まるのかという企画や、森林の維持作業を芸人に体験して貰ってから、一般の方にも体験して頂いたり、最新の林業機械も紹介したいです、結構格好良いんですよ。
基本、番組の企画として進めて行くつもりですので安く出来ます、お世話になってる局に企画を持ち込めば何本か通るのです。
テレビに映れば人が来る様になりますので、市内の飲食店も紹介したいですね。」
「成程、企画を持ち込み場所を提供、自分達に出来る事では有りません。」
「月曜日は梅子姉さんが土日に何をしていたのか聞いてくれますので、さり気に宣伝出来ます、ここから中継というのも有りですね。」
「経済効果が期待出来ますね、核になる施設が出来れば、市としても活性化に向けた事業展開を進め易くなります。」
「本間さんは市の青写真をどの様に描いておられるのですか。」
「そうですね…。」

リコール運動の中心人物で有り、次期市長候補で有る本間さんとの対談は地元のテレビ局が撮影していた、事前に情報を流したのは俺達直属のスタッフ。
瀬田和馬十万円で土地を買う、と題してキー局でも流された。
俺の土地は、すでに注目を集め始めているのだ。
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地方支部-05 [シトワイヤン-10]

党員集会終了後は本間さんのお宅にお邪魔した。
愛華は広い庭と大きな家を目にして…。

「立派なお宅ですね、本間さんは苗川市の出身ではないと聞きいていましたが。」
「ああ、東京育ちなのだが、ここが気に入って数年前に越して来たのだよ。」
「本社は東京、ご不便は有りませんか?」
「社長が東京に住む必要はないんだよ、ここの社長室で問題ない。
なあ、東京は品行方正な中年が住みたい所だと思うか?」
「う~ん、お仕事の為に仕方なくという人ばかりなのか、品行方正ではない方が多いのか考えてしまいます。」
「愛華さん、田舎暮らしは、どう?」
「一人では無理です、でも、大学と仕事が無くて和馬と一緒だったら苗川市みたいな所に住んでみたいです、和馬はここの夏を気に入っていますので。」
「和馬くんは、それで土地の話を?」
「はい、でも、夏休みにお話しさせて頂いてからこんなにも早く、しかも整地済みで…、本当は整地だけでもかなりお金が掛かっているのではないですか?」
「はは、君が使ってくれたら何倍にもなって返って来そうだと思ったんだ、今日、テレビ番組の話を聞かせて貰ってそれを確信したよ。
実は、ぼんやりと、あのエリア一体を多目的公園に出来ないかと考え、前から調査はしていたんだ、持て余している土地を安く引き取る話はすでに有ったのさ。」
「調査は党員の方が?」
「ああ。」
「苗川市の党員は一気に増えましたね、有権者に於ける党員の割合は全支部中トップです。
本間さんが生まれも育ちも苗川ならまだ分かりますが、どんな流れで支部長になられたのですか?」
「そこには色々な思いが有ってね。
引っ越して来る段階で死ぬまでここで暮らそうと考えたんだ、だから家は設計段階から老後を意識して建てた。
死ぬまで暮らすのなら、地元の方と親しくなっておきたいだろ、だから地元の行事には積極的に参加させて貰ってたんだ。
そんな場での話しから、この苗川市の問題点が見えて来て、会社再生をして来た私の経験が地方都市再生に活かせるのでは思い始めたのさ。
そんな時に市民政党若葉が登場したんだよ。
学生が発起人で有りながら、大学関係者を中心に大人達が新しい政党を作る。
バランスの取れた形で徐々に党員を増やしているのを確認して、取り敢えず周りの知り合いに教えたら、すぐに党員が百人を越えたのさ。」
「それだけの人脈をお持ちだったのですね。」
「まあ、若者が地域行事の主役に成れる様な改革を後押ししていてね。
祭りが衰退して行く、とお年寄りが嘆いておられたから、色々提案したのさ。」
「若者の参加が少なくなっていたのですね、どんな改革をされたのです?」
「飲み屋で知り合った若者達に、町を出て行った若者が帰省して来るタイミングで新しいお祭りをしないかと持ちかけてね、そこに昔ながらのお祭りを取り込んだのさ。
若者が主催者になり、今まで祭りを運営して来た連中はサポート、揉め事は有ったが、この形にした事で運営スタッフが増え、活気有る祭りになったんだ。」

本間さんの力と人柄が分かった気がする、それまで祭りに興味の無かった若者をイベントの中心に置くことで若者にとっても魅力的なイベントに、こういった発想で会社の業績を上げて来られたのだろう。
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地方支部-06 [シトワイヤン-10]

「祭りというイベントを共にすることで、地元の仲間意識を高めたのですね。
若者とお年寄りを繋げたのは、本間さんのスキルということでしょうか。」
「まあ、お祭りに寄付し飲み会では奢るとか、金の力も働いているがね。
で、君達がテレビに出始めてからは、党支部の話が出て党員が更に増えたのだが、この頃から、どうも市長に問題が有るという情報がね。
これは党のサイトで党員達が情報交換して判明したことなんだ。」
「党のシステムが役に立ったのですか?」
「ああ、党員の一人が目撃した市長のグレーな行為を、些細な事だがとネット上で報告したら、市長の好ましくない話が続々と出て来たのだよ。」
「そんな人が選挙で当選してしまうのですね。」
「与党がバックにいて、大した対立候補がいなければ当選して当たり前、裏の顔なんて一般有権者には分からないからな。」
「選挙の実態と言うか、怖さでも有りますね、立候補者は当然有権者受けする事しか話しませんし。」
「まあ、我々はこれを党支部の団結を固め党員拡大につなげる好機と捉えた訳だ、明確な対立軸の存在が党員の動きを加速してくれたのさ。
そして、自分の実績を知ってる人達が私を支部長から市長へと推して下さっている、市長になると気安く奢れないぞとは言って有るのだがね。」
「党として候補者を立てる初の市長選挙、油断は禁物ですが、今日の集会で当確の文字がすでに見えていると感じました、でも、対立候補は出て来ますか?」
「まともな人なら、市民政党若葉の党員数を調べ、供託金百万を無駄にする確率の高さに気付くだろうな。」
ここまで黙って話を聞いていた清香が。
「市長となられたら、どんな市政を考えておられますか?」
「そうだな、基本的な事は今まで同様に進めて行かなくてはならないが、改革出来る所は改革して行く、その上で、こんな自然環境に恵まれた環境で暮らしたいという人の誘い込みだな。
満員電車で通勤するオフィスを、そのまま、この地に再現出来ないか考えているよ。」
「難しそうですが、出来なくはないのですね、本間さんが社長室をこの地に移された様に。」
「分かってるね、まさにそういうことなんだよ、田舎のオフィスで働くというライフスタイルを提言して行こうと考えているんだ。」
「人は都会から田舎に向かうでしょうか?」
「私のスタッフ達は渋滞と満員電車から解放されて、苗川から転勤したくないと話しているんだ。
それで社内にプロジェクトチームを作って、田舎でも仕事に支障がなく満員電車から解放されたい人の募集を始めた所、すでに十名程度の希望者がいて調整しているよ。」
「企業が動けば過疎化に歯止めが掛かるのでしょうか?」
「過疎地では労働力を確保出来ないと考えてるだろうから、そこまでは難しいだろう。
だが、敢えて工場や倉庫ではなくオフィスを移転し本社機能の一部を苗川に置くことで大都会から離れられない人達に考えて貰おうと思ってるのさ。」
「オフィスを過疎地へとは考えてもみませんでしたが、単独より幾つかの企業が共同で取り組めば効率が良くなりそうです、市民政党でも紹介して頂けると嬉しいです。」
「そうだな…、まずは示せる実績を上げてからと考えていたのだが…、清香さんの言う通りだ、概要をまとめて公表させれば、市民政党に関係してる企業の人達が考えてくれそうだな。」
「では知り合いの社長さん達とも相談してみます。」
「清香、都会の本社が自然災害などで機能停止した場合、バックアップを必要とする企業はないのかな?」
「そうですね…。」

暫くは、田舎にオフィスを置くメリット、デメリットについて話し合った。
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地方支部-07 [シトワイヤン-10]

本間さんは社長として色々考えておられる。
だが、そのまま市長となると難しい問題が出て来そうな気がして。

「本間さんは市長と社長を兼任されるのですか?」
「いや、会社の方は筆頭株主として影響力を残しながら社長から退く、だが後任者も地方都市に住む事を考えている市民政党若葉の党員だからね。」
「やはり本間さんの影響で?」
「どうかな、それなりの規模になった企業のトップは社会に対して責任が有ると考える女性だよ。
まあ、私がどうやって紙屑同然だった株の価値を高めて来たのか知ってる人だから任せられるのだがね。」
「それも興味深いです…。」

本間さんからは色々なことを学ばせて頂いた、企業の業績回復に成功したのは偶然ではない、という言葉が印象的。
翌日は市内のあちこちを回り、市の実情に触れてから帰途につく。
本間さんが再生を考えている町、苗川市がどう変わって行くのか楽しみだ。

苗川市から市長辞任表明のニュースが入ったのは、それから間もなくの事。
市長リコールの住民投票が無くなり、市長選の告示となったが、本間さん以外に立候補者は無く無投票当選。

「無投票当選って、盛り上がりに欠けるわね。」
「愛華、無駄な選挙費用を使うよりは良いと思います、四月には市議会議員選挙が有りますし。」
「統一地方選挙だよな、市民政党としてどれだけ所属議員を増やせるのだろう。」
「苗川市では十七議席中最低十三議席は確保したいと目論んでいるようです。」
「苗川の党員は熱いからな、市長選が無投票になったパワーを市議会選へという事だろうな。」
「それで、議員定数の削減と議員報酬の見直しを進めるそうです。」
「そうなんだ、議員定数は意識していなかったな。」
「調べてみたのですが議員定数は人口比ということではなく、それぞれの市町村で定められていて、人口の割に議員定数が多い議会も普通に有ります。
それぞれ諸事情が有るのでしょうが、苗川の党員達は十三人で良いとの結論に達したみたいです。」
「根拠は有るの?」
「一応十三の地区を意識したのと、議員の仕事をシミュレートした結果だそうですが、実際に市民政党所属の議員が誕生し活動して行く中で見直して行くと。」
「議員活動が選挙対策ばかりの議員もいそうだが、苗川なら選挙対策に多くの時間を取る必要はないだろう、その分、議案に時間を掛けることが出来るのかな。」
「でも、議員定数は十人でも二十人でも議会を通りさえすれば良いのよね、国会だって今の定数が正解なのかどうかは分からないわ、国会議員一人当たりの経費は大きいのに。」
「議員報酬自体が適正な額なのかどうかは明確には示しにくいです。」
「ああ、バランス感覚の有る人達でさえ悩みそうだよ、全国全ての議員報酬一覧を見たが、ばらつきが大きかった。
それぞれの事情が有るのだろうが、村議会議員の報酬が大卒初任給より安いのは、アルバイト程度の仕事しかしていません、ということなのかと思ったよ。」
「議員定数割れという話が有りましたが、まともな報酬にすれば、村会議員を目指す若者が登場するかも知れません、ただ、それに見合うだけの仕事が出来ないと…。」
「一度問題提起してみるかな。」
「はい、市町村支部が個別に検討している様ですが、党としての指針が有っても良いと思います。」
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地方支部-08 [シトワイヤン-10]

夏休みに立ち寄って気に入った苗川市、俺達は本間市長の市政を後押しすべく、放送局に様々な企画を持ち込んだ。
表向き『瀬田和馬が十万円で購入した土地』をどうするかで始まった企画会議では、春休みの一か月間、梅子姉さんとのレギュラー放送を苗川市からと提案。
全国放送を田舎の町から発信したら、どんなデメリットが有るのか、という実証実験だ。
メインテーマを『脱東京』において、オフィスが田舎に移転したら、東京から移住した社長が市長になって、といった企画や話題を提供した結果採用された。
番組視聴率は良いがそれに甘える事のないマンネリ防止策でも有り、視聴率が良いからこそ予算も出る。」
梅子姉さんは始めから乗り気でスケジュール調整、他の番組出演依頼は苗川市でなら受けると徹底してくれた。
彼女自身が気分転換したいと話してくれた言葉に偽りがないことを俺は知っている。
テレビ局も、この企画そのものをドキュメンタリー番組に仕上げることにした。

「ねえ和馬、番組を脱東京させるデメリットは大きいのかしら。」
「スタッフや機材面では効率が悪くなるんじゃないのかな、ゲストを呼びにくくなるかも知れないね。」
「番宣ゲストは勝手に来るんじゃないの。」
「あっ、そうか…、なあ、あの人達のギャラはどうなっていると思う?」
「それなりにおサイフが有るんじゃない、それより費用面ではスタッフの宿泊がネックになると思ってたら、空き家リフォーム企画とはね。」
「党員の協力が得られそうだったからな、すでに番組ADが自分の住む部屋を自分でリフォームしながら撮影してたり、業者が作業する部屋も簡単に撮影して、四月以降の入居希望者を募るそうだよ。」
「入居希望者がいなかったらどうするのかしら?」
「オフィスを田舎に移転させる計画が進んでいるから大丈夫、俺達の企画は四月以降も続くから、局としても常駐スタッフを置くことになるだろう。」
「思い切った企画よね、一つの地方都市を番組で強く後押し、他の市町村から妬まれそうだわ。」
「まあ、参考にして貰うという事で、梅子姉さんは四月以降も地方都市からが良いって話してたけど。」
「和馬は大学が有るから次は夏休みでしょ。」
「場所を選べば通えると伝えておいた、市民政党の党員が多い所という条件を付けてね。」
「単位は余裕?」
「ああ、多分大丈夫だ、地方の支部を盛り上げたいしね。」
「ついでに安く土地を手に入れてとかも考えているのでしょ。」
「勿論さ、土地を活かせなかったら過疎化は進む一方だろ。」

『脱東京』というテーマは夏休みの旅行から考えていた、それを東京からではなく人口三万の地方都市から発信することに意義が有ると思っている。
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地方支部-09 [シトワイヤン-10]

『脱東京』と銘打った苗川市からの放送に先立ち、梅子姉さんと市内の居酒屋へ、本間市長の紹介だ。

「おお~、梅子姉さんがこんな店に来てくれるなんて感激だな。」
「おい、こんな店は無いだろ、今日はプライベートですか?」
「ええ。」
「だそうだ、みんな大人しくしてくれな。」
「は~い。」
「でも、明日からの企画を宣伝して下さるのなら写真は構わないわよ。」
「やった~『脱東京』ですよね、嬉しい企画です。
俺達党員は苗川を良くする運動を進めていて、綺麗な町を目指しているのですよ。」
「そこに空き家のリフォーム企画、このおっさんは仕事が増えて儲かってますから今日は奢らせましょう。」
「えっ、奢らせて貰えるのか?」
「俺も出すよ、何でも頼んで下さい。」
「そうね、私はビール、和馬は?」
「じゃあ…。」

居合わせた客は全員が市民政党若葉の党員、乾杯をする。

「梅子姉さん、手伝えることが有ったら言って下さい、というか手伝いたいです。」
「そうね、スタッフへの差し入れにお勧めの品とかを紹介して頂けますか。」
「知り合いの店と相談しましょう、費用はこちら持ちで構いません。」
「それは駄目、東京の人間が苗川でお金を使う事が番組の趣旨でも有るの、今日は特別に奢らせて差し上げますが。」
「やったー、自慢しよ。」
「もし宜しかったら、番組の為に使おうと思ったお金を、貧困対策とかに役立てるとかはどうです?」
「流石、和馬元代表ですね、党支部が出来て真っ先に取り組んでいる事です。
市長が交代して予算配分が変わって行きますから、日本一優しい市になって行きますよ。」
「行き過ぎると社会的弱者が流入して来て、困る事が起きるのでは有りませんか?」
「空き家が全部埋まるだけで良いじゃないですか、人が増えればお金が回ります。
空き家が埋まれば社会的弱者は越して来れなくなります。」
「成程、本間市長なら税収アップ策を色々お持ちだろうし何とかなるのですね。」
「和馬さんの『瀬田和馬が十万円で購入した土地』企画でも、経済効果が出始めているのですよ。
何もない土地を見に来る人が結構いまして、昼時は飲食店が賑わっています。
何にも無い所から村が出来上がって行く過程を見て行きたいという人とか、ログハウス企画の参加者も結構な人数来てると聞きました。」
「ログハウス企画は予想以上に盛り上がっていますからね、皆さんのお金と労力で、ログハウス村が完成しそうです。
ログハウス一軒を想定して始めたら、お金を出す人、建築に参加する人が続々と、キャンピングカーで生活しながらログハウスを建てるつもりの人もいるのですよ。」
「上下水道と共同トイレの整備が済んだら本格スタートだと聞きましたが、電気と通信の地中線化も順次進めて行くのですよね。」
「と思いますが、とっくに自分の手を離れていまして、自分の土地に関する事でも掴みきれてないのです。」
「それでも『瀬田和馬が十万円で購入した土地』としてアピールしてくれたことは大きいです。
同じことを企画したとしても、看板になる人物がいないと盛り上がりません。」
「その辺りも含めて、明日からの放送は、それぞれの企画がどの程度の影響をもたらすのか、実験的取り組みなのです。」
「分かってますって、応援しますよ。」
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地方支部-10 [シトワイヤン-10]

『脱東京』と銘打った苗川市からの放送、冒頭は苗川市役所の屋上から見える山並みの風景から。
局アナが簡単に番組の趣旨説明をし、苗川市を紹介するVTRへ。
簡単に済ませたのは屋上が寒かったから。
市役所内の一室へ移動して。

「今日のゲストは苗川市の本間市長です。
これから一か月間、苗川市全面協力での放送になります、市長、宜しくお願いします。」
「こちらこそよろしく。」
「市長になられてまだ日が浅いですが市政は如何でしょう?」
「私達が目指しているのは、市民一人一人にも市の事を考えて頂く市政、そうですね、税金を払って公的サービスは市にお任せ、というのでは無く、案を出し合い、市民のお力をお借りして、住み易い町にしようとしています。」
「あまりピンと来ないのですが。」
「大都市では不可能でしょうからね、人口三万、その内の二万人が市民政党若葉の党員。
党支部が発足してから、町がどんどん綺麗になっているのですよ。
党員に対して強制は一切有りませんが、掃除や草刈だけでなく、空き家や耕作放棄地をどうして行くか、住民自らが党員の立場で地主と相談しています。
その一つの結果が、瀬田和馬くんに十万円で購入して貰った土地です。」
「あの土地は皆さんが協力して整地されたと聞きました。」
「和馬くんからの依頼は単に耕作放棄地などを買い取りたいという話だったのですが、使い道が決まってから整地するのではなく、取り敢えず整地してみてはどうかという話が出ましてね。
実際に整地してみたら景観が良くなりましたので、他の土地でも検討しています。
まあ、使い道が見つからなかったら和馬くんに売りつけますが。」
「お願いします。」
「和馬は余裕で引き受けるの?」
「ええ、梅子姉さん、新会社を立ち上げ企画を進め始めたらログハウスが何件も建てられるだけの資金が集まりましたからね、趣味として建てたい人が作業して下さいますので人件費は掛かりません。
オートキャンプ場と野菜畑を併設した、株主優先の宿泊施設になります。」
「土地を提供して下さった地元への貢献は大丈夫?」
「本日午前中の地鎮祭にはカメラを持った人が大勢集まって下さいましてね、その方々の多くは市内の飲食店で食事をされたのですよ。
その辺りの情報を流し活躍してくれてる新会社の社員は東京へ働きに出ていた人、まだ細やかですが彼の故郷に雇用の場を増やせそうなのです。
ただ、本間市長は単に人口が増加すれば良いと考えておられるのでは無く…、市長を目の前にして自分が話すのも変ですのでお願いします。」
「はは、梅子姉さん、和馬くんは、すでに大きな経済効果をこの市にもたらしてくれているのですよ。
その力を借りて実現して行きたいのはですね。
豊かな自然環境を守りながら、行き過ぎた競争社会とは違う価値観の町、人口は少し増やすつもりですが、より健全な住環境を実現させたいのです。」
「それは住む人の価値観を変えるという事でしょうか。」
「年収一千万のストレスだらけの生活、年収五百万ののんびりした生活、そんな選択肢が有る事に気付いていない人もいるのですよ。
様々な不幸によってストレスを抱えている人もいますが、私達は、よりストレスの少ない町、バランスの取れた町を目指しているのです。」

本間市長は市長になる前から、市民政党若葉苗川支部支部長の立場で、この提言をされて来られた。
それを受けて、大都市には無い魅力的な町にしようと動く住民の熱さは本間市長の人柄によるのだ。
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