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ある庭で [短編集-1]

桜が散り、ツツジがその主役の座をとって変わろうかという頃。
ある住宅街の一角にある邸宅、その庭でごめんねごめんねと言いながら草を抜いている少女がいた。
手の行き届いた庭で今はムラサキツツジが見ごろ。
少女の名はさつき、14才の中学生。

「そんなに謝らなくても良いのですよ。」
そんな声がさつきに届く。
さつきは周りを見回すが誰もいない。
(声がしたと思ったんだけどなぁ~。)
気を取り直して作業にもどる。
「ほんとに庭仕事が好きなのね。」
また声が。
(えっ? だ、誰かしら?)
もう一度見回すが誰もいない。
(あれっ?)
さつきは夕暮れ時の木陰で一輪の花がぼんやり光を放っているのに気付く。
(うわ~、きれい、でも不思議な花ね。)
「やっと気付いてくれたわね。」
「えっ、さっき声をかけてくださったのは…。」
「ふふ、私よ。」
「えっ? えっ? ツツジの花が話してるの?」
「ちょっと違うかな、私は、う~んとそうね、人間の言葉で言うなら精霊かな、今はこの花に宿ってるの。」
「へ~、え~とえ~と…、私はさつきって言って…、え~と…。」
「ふふ、そんなに緊張しなくても良いですよ。」
「精霊さまとお話しするなんて初めてで…。」
「そうね、あなたは初めてでも私はあなたのこと色々知ってるわよ。」
「えっ?」
「この庭は私のお気に入りだから良く来てるの、今はこのムラサキツツジに宿ってるけど、しばらく前はそこの桜や木蓮に宿っていたりしてあなたのことを見ていたのよ。」
「へ~、そうだったのですか。」
「そうそう、さっき、ごめんねって言いながら草むしりしてなかった?」
「はい、この庭を綺麗にしておくには…、自然に生きている草を抜かなくてはいけなかったりするんです。」
「そうね命を大切に思うと、ごめんねって気持ちになるのかな、でもね植物ってあなたたち人間とは全然違った考え方をしてるのよ、さつきさんは抜いた草をどうしてる?」
「お母さまに教えていただいて堆肥になるようにしています。」
「それだけで充分抜かれた子たちは喜んでいると思うわよ。
次への命へ自分が役立つのだから。」
「え? 本当ですか?」
「さつきさんが心を込めて守っている庭で他の木々の役に立てれば嬉しいかもね。」
「へ~、そう言っていただけるとなんか心が軽くなります。」

「ねえ学校でつらいことが有ったでしょう?」
「あっ、は、はい…、何もかもお見通しなんですね。」
「今日は天気が良くて気持ち良かったから、そう風に乗ってね、さつきさんが学校でどんなにしてるかなって。
そうね、ふふ授業参観してきたわ。」
「え~、何か恥ずかしいな。」
「気にしない気にしない、でね、あなたがしたことは人を思いやる正しいことなの、自信を持って。」
「そう言われても私…、気が小さいから…。」
「ふふ、驚かないでね。」
その瞬間、ぼんやり光を放っていた花から一筋の光が立ち上り、その光はさつきを優しく包み込む。
見ている人がいたら、さつきが光っている様に見えただろう。

ふと気付くと、さつきは庭で横になっていた。
(あれ? 精霊さまは? う~ん何かすごく色々なことを教えていただいた気がする…。
はは、こんなに沢山のことを教えていただいたのは初めてだわ。)
「さつき、そろそろ晩御飯にしない?」
「あっ、お母さま、え~と、う~んと…。」
「この庭に宿る精霊さまとお話ししたのでしょ。」
「うん、ということはお母さまも?」
「ふふ。」

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