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71-映像 [キング-08]

二日目は静かに経過した、だが城の住人による夜の会議は普段とは違って少々熱を帯びるものになった。
ブラックコロニーの監視映像が原因だ。

「城の子が子ども達の世話に時間を取られてて良かったな、こんな映像見せたくないぞ。」
「差別意識が、記憶のプロテクトが外れ始めてからさらに膨れ上がったみたいね。」
「一応プロテクト解除に伴う苛立ちが落ち着くまで待ってみようとは思う。」
「自分達が罰を受ける事無く、和の国を亡ぼす方法を考え始めるとは思わなかった…。」
「どんな手段を考えるのか興味深い、わくわくするな。」
「う~ん、確かにそうなんだが…、この国の芸術文化系コロニーって確認できたか?」
「えっ、もしかして。」
「今までの調査では何も…、芸術的な犯罪って事なのか?」
「それっていらないでしょう。」
「二十人の子ども達の中で彼等の子は十一人、子ども達が受け継いだかもしれない資質は無視できないかも。」
「それより親達はどうするの?」
「隔離は出来てる、このまま居住コロニーで一生を過ごして貰う事も可能、チャンスを与える事も可能、ただ彼等の一生を私達の一存で決めるというのは、リーダーの役目とはいえあまり気持ちの良いものではないな。」
「かと言って、外に出したら、静かに和の国滅亡計画を実行する訳だろ。」
「もし彼等が動いたら、どれぐらいの人が乗るのかな。」
「今は和の国が好きな人でさえ説得されるかもよ、それぐらい言葉巧みな人がいるの。」
「子ども達の試練を増やすか減らすかという問題でも有るな、試練によって鍛えるか、要らぬ試練から守るか。」
「鍛えるのはもっと先で良いと思うわ、第一世代の問題は私達の責任でしょ。」
「だな、まずは観察させて貰おう、そうだ、いっそこの映像を編集して娯楽映画とか作るか。」
「作れないでもないが、彼等の子ども達の目に入る可能性も有る、記録として他国のリーダーに見せる程度にすべきだろう。」
「いや極秘にすべきだ、我々に監視能力が有る事が他国にばれてはまずい。」
「だがそれでは他国に対して説明しづらくないか。」
「嘘発見器を使った事にすれば良いのじゃないかしら。」
「回りまわって私達の嘘がばれる事になるだろう。」
「ブラックコロニーが存在する現実を考えたらスパイ能力を他国に与える事は極力避けるべきだな、他国への説明は何とかするから、端末の機能は隠しておこう…、ハッキングして他国の端末から削除しておく事も可能だ。」
「スパイ活動も世界の安定の為には必要なのかな。」
「気持ちの良い事では無いけど私達の役割を考えたら綺麗ごとばかり言ってられないわね、寿命を縮める行為を未然に防げるかもしれないし。」
「今日の監視では今回の作戦活動が和の国主導で行われている事に不満を感じているスコットランド人が見つかった、今は今後のフォローを考えてる。」
「今日の様子なら私達は一歩下がっても大丈夫そうよね。」
「疲れたとか適当な理由を見繕ってスコットランドにメインの管理をお願いしようか、私達はモニターで監視に専念かな。」
「でもいずればれるかも。」
「その時は平和の為に監視してましたって、でも嫌われるだろうな。」
「嫌われる日をなるべく先延ばしする事を考えようか。」
「そうだな。」

人を監視する事に抵抗は有る。
だが、監視をしっかり出来ていれば新島の悲劇は防げたかもしれない、他の人達だって罰を受けずに済んだかもしれない。
国民の小さな不満でも知っていれば解決できるだろう。
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72-製造 [キング-08]

三日目は朝から城の子を交えての会議。

「翔、ここの監視システムの事、どう思ってる。」
「この世界の隅々まで気を配る大切なシステムだと思う。」
「監視されてる側はどう思うだろう?」
「相手が知らなければ問題ないって、マリアさまもそうメールで答えてくれた、城の秘密なんだ。」
「誰かが間違って秘密を漏らしてしまう事はないだろうか?」
「心配なら、城以外の人達にプロテクトを掛ける事も可能、聞いても何の事か全く理解できない様に出来るんだよ。」
「それを実行するのはいささか抵抗を感じるな。」
「でも、ずっとじゃないんだって、僕らが十六歳ぐらいになったら、そういった制御は出来なくなる様にプログラムされているよ。」
「そうか…、ここは我々の負担を減らす意味でプロテクトをお願いするのも有りなのかな。」
「大切なのは第二世代をより良い大人へ成長させる事よね。」
「その為には、多少の罪を私達が背負う事になっても、子ども達が十六歳になるまでに、より強固な社会基盤を作っておく必要が有るわ。」
「大人達にプロテクトを掛けるのはさほど抵抗を感じないが、子ども達にはちょっとな。」
「子ども達は大丈夫、マリアさまが何時でも見守って下さってると僕らが教えてるからね、子どもにプロテクトは掛けれないし。」
「ならば遠慮なく監視システムを使うとして…、いや、その前にこの件に対する反対意見は?」
「使う側の良心に問題がなければ大丈夫でしょ、このシステムを使う事でより安心して子育てが出来るのなら反対する意味はないわ。」
「ならば、使用に関しての問題はモニターの数だな、端末の台数には限りが有るから効率が悪すぎる、キング何か手はないか。」
「その答えは尊が持っている。」
「はい、これからマリアさまの技術を教えて貰う事になっています、工作の時間に何を作りたいか考えておくように言われてますから、まずモニターにします。」
「そんなに簡単なのか、キング。」
「まずは部品を受け取って最終の組み立てを覚える、それから各部品の作成を習得、その後材料の製造、と工作の授業は随分先までプログラムされてる、ちなみに城の子しか作る事が出来ないと言われた、私は城の大人だから作れない。」
「はは、でも城の子全員が製造業に従事しても良いのか?」
「工作の時間は限られる、またしばらくの間、この事は国民にも秘密だ。」
「隠し事は好きじゃないけど。」
「私は、ようやく地下室が使えて嬉しいが。」
「えっ、地下室が有るのか?」
「ああ、使い道が牢獄とかにならなくて良かった、地下研究室、地下工場、そうだな監視ルームも地下に作ろうか、城の住人以外出入り出来ない設定にして有る、さらに亡霊が出たりと…。」
「亡霊?」
「望、どうなった?」
「地下への入口近くへ部外者が近づくと、一花おばさんがお話で聞かせてくれた、悪い子を食べちゃうおばけが出て来るわ。」
「それって、怖いの?」
「どうかしら、怖いってよく分からないから、悪い子を食べちゃう様なのを想像してみたけど。」
「翔、画像は見れないのか?」
「あっ、皆の端末に送るよ。」
「こ、これは…。」
「却下だな、こんなに可愛い亡霊では無駄に人を引き寄せてしまう、一般人が地下へ入れないとはいえ、その存在は極力秘密にしておきたい、このキャラクターは食堂で使おう。」
「地下への入り口の方はどうするの?」
「変な小細工はいらないだろ、キング。」
「いや、この城にも亡霊の一人ぐらい住まわせたいと思ったのだがな。」
「亡霊と言ってもこの城で死んだ人はいないし。」
「そうか…、では別の遊びを、子ども達後で秘密会議だ。」
「ラジャー。」
「はは、結果を楽しみにしてるよ、ところでモニター以外はどんな物を製造出来るのだ?」
「まずは下の子達の為に端末を用意しないといけないが、そうだな、マリア達のテクノロジーを使った道具でもっと欲しいという物が有ったらリクエストしてくれるか。」
「何でも作れる様になるという事か?」
「まあな。」

マリアは自分達のテクノロジーを受け継ぐのは城の子だと断定した。
私達に出来ない事も城の子達は出来る様になる。
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73-対応 [キング-08]

当面の最重要課題は例のブラックコロニーだ。
監視カメラの映像を見ながら。

「苛ついていて、多少の言い合いはしてるが、罰を恐れて自制してるみたいだな。」
「結構な自制心だ、それが有ったからそんなに老化してないのだろう。」
「十一人の子ども達が全く差別の無い社会で暖かく守られている状況、黄色人種を兄姉の様に慕っている状況はさすがに気に入らないみたいね。」
「教育し直さなければって言ってた奴がいるぞ、でも子ども達がもっと親を恋しがるかと思ったが、そうでもなかったな。」
「遊びに夢中だからね、モニター越しに親と対面しても、親の表情が険しくては恋しさは薄らぐだろう。」
「あら、やはり戦争の原因は日本だと流布する作戦にたどりついたのね。」
「彼等にとって真実は関係ないからな、でも説得力の有る根拠をでっち上げられるのかね。」
「どうする、キング、この調子ではコロニーから出せないが、他の国にその理由が説明出来ない。」
「スコットランドのリーダー達にだけ一花が体験した彼等の手口を話してみよう、一つのコロニーだけ平均見た目年齢が低くて不自然だという事で納得してくれるのではないか。
そこから導き出された人種差別感情を話せば、今後の交渉はスコットランドと共同が良いと理解して貰えるだろう。」
「彼等が洗脳される事はないかしら。」
「それを避ける為に必ず三郎か三之助と一緒に話し合って貰おう、だがしばらくはスコットランドも重点監視対象にせざるを得ないな。」
「監視業務の負担が増えるな、他の業務に影響は出ないか。」
「場合によってはすぐ対応する必要も出て来るでしょうし、我々八人だけでは厳しいわね。」
「子ども達に私達の通常業務を任せてみるか?」
「そうね、どんな事をしてるかは学習の一環として教えて有る、リーダー業務の実習という事で試してみましょうか。」
「では今後の流れと分担を決めるか。」
「そうだな、早い方が良い、とにかく彼等が落ち着くまでにスコットランドと今後の方針を協議出来るところまで持ち込みたいな。」

子ども達に仕事を任せる事がすんなり決まったのは、彼等の頼もしさに有る。
私達の子どもがマリア達の子でも有るという事は受け入れざるを得ない状況、近い将来私達の能力を軽く超えて行くだろう。
実験の産物で有る事に若干の抵抗は有るが、高い能力を持った子ども達を私達は愛している。
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74-映像 [キング-08]

作戦開始から一か月、彼等の国はサンフランシスコとなった。
国民全員がサンフランシスコ出身だった事による。
今の所平和、多くの者は過去の犯罪を告白し懺悔、この地を楽園にする為に働くと誓ってくれた。
もちろん喧嘩がないのはブラックコロニーのメンバーを隔離した成果だ。

「ブラックコロニーの連中だけは相変わらず苛ついてるわね。」
「記憶はすべて蘇ってるだろうにな、和の国滅亡計画は一向に進んでいない、彼等の過去の記憶にも苛立つ理由が有るのかもしれないが、居住コロニーに軟禁されたこの状況は楽しくないだろう。」
「もう少し大人しくしてたらスコットランドには閉じ込めておく理由がなかったのにね、詐欺師としての判断力が記憶蘇りのタイミングで鈍くなってたのかな。」
「以前の彼等ならどんな感情も隠してにこやかに対応出来たでしょうね、でも軟禁状態に関して他の人達は何も言って来ないわね、かなり不自然な状態なのに。」
「今日、話題になってたわよ、自分達が喧嘩してた原因に気付き始めたみたい、コロニーから出したら、老化の進んだ人に殺される可能性も出て来たわ、どうせ近い内に死ぬならこの国の為に道ずれにしてやるって。」
「そうなると、問題解決へ向けて少しずつ彼等の置かれている立場を教えて行くべきかもな、その過程で彼等がどう判断するかを観察させてもらわないか。」
「そうだな、落ち着くのを待っていたのでは何時になるか分からない、この世界の映像を見せるか。」

翌日から、差別のない世界の現状をモニターで見せ始めた。
城のレストランで楽し気に食事するサンフランシスコの人達。
国を越えて人種を越えて共に遊ぶ子ども達。
そして。

「キングに対する各国国民の態度はインパクトが有ったみたいだな、誰しもがこの世界のトップリーダーとして尊敬しているとは思いもしなかっただろう。」
「あの映像でさらに敵対心を持った人と諦めた人の対立が鮮明になったわね。」
「ついに罰を受ける程の喧嘩をしたからな、そろそろ止めを刺すか…、サンフランシスコの人達が、短期間で老化した原因に気付いたと知ったら、さて彼等はどうするのかな。」

その映像はブラックコロニーのメンバーに絶望を与えた。
陰謀がばれ、恨まれている事を知っても差別発言を繰り返す者もいたが、居住コロニーにから出られない理由をはっきり理解した様だ。
この時点で彼等に出来る事は限られていた。
ただプライドの高さが彼等の決断を遅らせている。
我々は彼等に決断を急がせる事はしなかった。
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75-罰 [キング-08]

しばらくしてブラックコロニーが下した結論は負けを認める事だった。
結論に至る過程で大喧嘩をし罰を受けた事が妥協に繋がった様だ。
ただ。

「今日の午後、ブラックコロニーとスコットランドの担当リーダーが話し合ったわ、ちょっと見て。」

『我々に問題が有った事は認めよう、だが、自分達には裁判を受ける権利が有る。』
『残念ながらここに裁判所はない、法律もない、行政は良心によって行われている、我々は君達八人の為に立法府と裁判所を設立しなくてはならないのか、もしそこまで望むのであれば、君達を死刑にする法律を作ろうと思うが構わないな。』
『待て、死刑になる程の事はしていない。』
『前の世界でならな、だがこの世界では約束事が異なる、そうだな自分達に相応しい刑が有るというなら、それを提示してくれ、キングが納得すれば死刑ではなくそちらが採用されるかもしれない。』

「成程、これはうまい手だな自分の刑を自分で決める、だが被害者が納得してくれるのが出て来るかな。」
「愛は最近、犯罪、罪、罰、といった事を学習して貰っているがどう思う?」
「そうね、小さい子達は悪さをした時、怒られる事で学習している、それが大人になっても悪さをするという事は私達とは違った価値観を持っているという事かしら。」
「昔はお金という物があって、個人所有の物が多かった、でもこの世界にお金はない、私有物はすべてマリアさまからの借り物という考え方が浸透してきている、この先起きる犯罪は大人達の過去に関係するものしか思い浮かばないな。」
「翔はどんなのが思い浮かぶんだ?」
「差別的な心情、優越感、劣等感。」
「そんなとこだろう、それだけにブラックコロニーの件も落としどころを間違えると、彼等の子ども達が劣等感を引きずる事になりかねない。」
「彼等に特別な仕事を上げる事は出来ないかな。」
「ねえ、僕達、ここで生まれた子ども達は犯罪について知らない、でも知らなさ過ぎるのも問題だと思う、だから彼等に本を書いて貰うってどうかな? 居住コロニーの中で仕事が出来る訳だし、ゲートを和の国に繋ぎ替えればサンフランシスコの人と会う回数も減らせてトラブルが起こりにくいと思う。」
「尊はそんな事も出来るのか?」
「父さんと居住コロニーの整理を検討中なんだ。」
「その話も詳しく知りたいが、ブラックコロニーの連中を作家にというのは面白いな、反対がなければその方向で行きたいが。」
「居住コロニーから出す時は当分の間一人ずつだな、楽しい小説を書いてくれた時の御褒美として。」
「この件は尊に任せたいがどうだ?」
「はい、話の内容も相談したいので。」
「ではスコットランドと連絡を取ってくれるか。」
「はい、今から動きます。」

彼等の罰はひとまず保留、彼等がこの世界に貢献してくれるのであれば罰も変わって来る。
表向きは発案者である尊に任せた、だが必ず子ども達四人で意見交換をしている、そこにマリアが加わる事も有る。
どう進めて行くのか興味深いものだ。
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76-世代交代 [キング-08]

尊はよくやってくれている。
スコットランドのリーダー達に趣旨を説明した後、ブラックコロニーの連中とモニター越しに三回の対談、始めは子どもが担当という事に腹を立てた者も、すぐにプライドを打ち砕かれた様だ。

「次回は尊が居住コロニーへ訪問って事だが大丈夫か?」
「ここまでの監視映像では問題ない、有るとしたら組織的ではなく個人的な攻撃だが今まで武器は確認していない、スコットランドもかなりの警護を用意してくれている。」
「それにしても、本人が望んだとはいえ、自暴自棄になって攻撃してくる奴がいないとは言い切れないないだろう。」
「大丈夫だ、最後はマリアが守ってくれる。」
「それでキングは落ち着いている訳か。」
「いや、三之助に手伝って貰って彼等の精神分析をし尽くした結果でもある、すでに彼等は無害だと思う、このタイミングで仕事を与える事により、この世界の真の住人となれるだろう。」
「他の国民に受け入れられるだろうか。」
「その辺りは望が考えてくれている、時間は掛かるだろうが牢獄での終身刑よりはましな形で、皆には妥協して貰えると思う。」
「何とか良い方向へ向かって欲しいものだな、ところでキング、尊が話してた居住コロニーの整理はどうなってる?」
「翔が引っ越しの希望調査を始めている、自分の国の別コロニーへの転居、もしくはサンフランシスコの居住コロニーへの移住が大人達にも認められた。
希望者が多ければ住人が極端に少ないコロニーをサンフランシスコへ繋ぎ替える事も可能だ。
愛はすべての居住コロニーを回り現在の状況を確認、改修作業準備をしている。
罰を受けて住みづらくなったコロニーも許される範囲内でリフォームという事だ。」
「いよいよ、城の子ども達がとても特別な存在だという事を世界の人達が知る訳だな。」
「ああ、この作業は城の子ども達にしか出来ないからな。
マリアによれば、これはサンフランシスコが落ち着いて来た今、大人達に課せられた一つの試練が終わる事を意味しているそうだ、今後も試練は有るだろうが、マリア達がプログラムした大人に対する罪と罰が終わる。」
「という事は、罪を犯しても罰を受けなくなるのか?」
「城の子ども達が、その必要性を感じたらプログラムし直せる、但し第一世代に対してのみだ。」
「この事は大人達に伝えるの?」
「聞かれたら答えれば良いだろう、聞かれなかったら黙っていれば良い。」
「静かに世代交代という事か。」
「もっと先だと思ってた、でも子ども達がこれからどんな判断を下して行くのか観察させて貰いましょうか。」

私達の役目が終わった訳ではない、だが我々がマリア達と共に構築してきたこの世界の明日は城の子ども達に委ねられようとしている。
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77-都市伝説 [キング-08]

八人の大人が城で暮らす様になってから、ここの暦で八年と九か月、城の子ども達は居住コロニーなどの大改造を始めた。
その結果、世界の住環境が大幅に改善されつつある。

「子ども達の働きに戸惑いつつも、改修作業の結果は喜ばれているな。」
「寝る為だけに戻ってた居住コロニーが住み易くなって、国民の生活パターンにも変化が見られるわ。」
「農場の作業効率も上がり、マリアさまに捧げる余剰食糧も増える一方ね。」
「需要があるそうだが、何にしても余裕が有るに越した事はない、七カ国の人達は七つの言語の壁を越えて協力、世界を楽園にしようと…、過去の世界の事を考えたらすでに楽園と呼べるよな。」
「そうね、大人達の表情も随分穏やかになったわ、老け込んでた連中も若干若返った感が有るわね、争う理由が無い事に気付き始めたということかしら。」
「マリアさまを信仰の対象にしたのが良かったと思うわ、過去の神様たちは安らぎ以外に争いを与えて下さったけど、マリアさまは子ども達を通して、目に見える形で生活環境を改善してくれている。
マリアさまが何時も見守って下さっていると信じられているし、私達の監視を通して小さな揉め事も減らせているからね。」
「ほとんどの不満は解消出来てると思うが、見てる時に口に出してくれないと分からない、拾いきれているのだろうか。」
「ならマリアさまからのお告げという事にして、不満や希望が有ったら、そうだな…、城の正面にある欅の大木に向かって声に出して願えば叶う場合も有るってどうだ?」
「そうね、でもお告げより、まずは都市伝説的に噂を広めるってどうかしら、願いが叶わなくても諦めやすいでしょ。」
「そうだな、やってみるか。」

麗子と八重は翌日、食堂でさりげなく会話。

「ねえ、欅さまってどう思う?」
「一花は信じてるみたいよ、欅さまにお願いしたから誰よりも早く子を授かったのかもって。」
「偶然かもしれないけど、ちょっぴりロマンティックよね。」
「三之助は、声に出して自分の希望を言うことは大切だって言ってた、不満を持っていても黙ってたらマリアさまに届かないってさ。」
「そうか、まあ私等不満もないし、願い事は世界平和だから…、でも念の為に世界平和を欅さまにお願いしておく?」
「そうね、自分の気持ちの再確認になるのかな。」

二人が結構下手な芝居を打つ事になったのは、彼女達が何の不満もなく暮らしている事による。
それでも二人の会話は数人の耳に届き、都市伝説を始める事に成功した。
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78-願い事 [キング-08]

作られた都市伝説は思わぬ情報をもたらした。

「簡単に叶えてあげられるお願いをしてくれる人がいたおかげで欅の木に話し掛ける人が増えたわね。」
「しかし内容がな、軽めのならいざ知らず、私達の子を産みたいなんてストレートなのにどう対応すれば良い?」
「彼女達の気持ちは分かるわ、独身者もいるし既婚者子持ちだって本能的に優秀な子を産みたいと思うでしょうから。」
「でも正直不倫する気は…、ひとまず独身者同士の出会いの場を作ってごまかすか?」
「そうね、国際結婚が可能な状況になって来たのだから婚活の場を企画しましょう。」
「この先不倫や離婚といった事が表面化してくるのかな。」
「どうかしら、今のところ表立っては見つけていないけど、心の中の色々な思いが判明したわね。」
「遺伝的には、我々以外の不倫はそんなに問題ないだろう、普通の子が生まれるだけだからな、だが我々の遺伝子が一般人と合わさったらどうだ、天才と一般人、その中途半端な存在を生み出して、この社会の安定を損ねる存在にならないか。」
「可能性は否定できないわね、子どもは増やしたいけど気を付けてね、ロック。」
「はは、最高の妻がいるのに何に気を付けるんだ、それより美人揃いなんだから襲われたりしないように気を付けろよ。」
「そうね、マリアさまの罰がなくなって気が緩まらなければ良いのだけど。」
「イベントを増やすか、平和な社会を皆で維持して行こうと強調する様な。」
「そのイベントで、あまりうまくないけど歌手になりたいって人にもチャンスをあげな? 趣味の幅を増やせる環境を整えれば生活が豊かになっておかしなことを考える人を減らせると思うわ、他の国とも相談して毎月開けないかしら。」
「城下町では毎日がお祭り気分だがな、そう言えばミュンヘンの人が城下町に店を出したいとお願いしてたな。」
「直接話してくれれば良かったのに、遠慮が有ったのかな、城下町が賑わうのは良い事よね。」
「表向きはマリアさまから聞いた事にしてすぐ相談してみるよ。」

実現が無理なもの以外は極力願いを叶えている。
しばらくすると神頼み的なものではなくマリアへの願い、もしくは我々への要望が届く手段と認識された様で、無茶お願いは少なくなった。
一方で世界平和を祈る人が増えつつある、現在への感謝の言葉と共に。
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79-能力 [キング-08]

翔が八歳の誕生日を迎えた頃から弟達もマリアの指導を直接受ける様になった。
城の子は特別な存在として神の子と呼ばれている。
マリア達のテクノロジーを駆使して子ども達が工作の時間に作る作品は、数などの制約は有ったものの大人達をずいぶん喜ばせた。
彼等はそれと引き換えに各国の大人達から過去の世界についての話を聞かせて貰っている。
チェスや将棋といったゲームも教えて貰ったが、そっちはすぐに飽きてしまった様だ。
大人と勝負しても簡単に勝ってしまい、城の子同士だと勝負がつかなかったからだ。
それでも他の子ども達にルールを教えたりはしていた。
他の遊びも、自分達が遊ぶというより他の子達の遊びを演出、そう楽しませる側にいる。

「翔、今度の工作は何なの?」
「動画撮影用のカメラだよ。」
「使い道は?」
「昔テレビってのが有ったのでしょ、そんなのを始めようと思うんだ、端末でも撮影出来るけど使える人が限られるから、誰でも撮影出来る様にね。」
「放送はテレビ電話のモニターを使うの?」
「初めの内はね、でもモニターは簡単だから専用のを作るよ。」
「どんな番組が見れるのかしら?」
「望が中心になって考えてる、簡単なのは音楽村の演奏だけど色々有った方が楽しいでしょ、データベースを構築して選べる様にするからね。」
「それは楽しみだわ、昇もちゃんとやってる?」
「大丈夫だよ、昇は僕らの中で一番工作が得意かもしれない。」
「へ~、あなたたち皆同じぐらい何でも出来ると思ってたけど、得意な事とか有るんだ、まあ性格が違うから当たり前なのかしら。」
「う~ん、そうだね最初の四人は何でも出来ちゃうタイプ、昇、香、誠、巴は得意な事が有る代わりに苦手な事が有るかな、でも苦手でもやれない訳じゃないんだ。」
「他の子達は何が得意なの?」
「香はちっちゃい子の相手、巴は大人の相手、誠はプログラム管理、香と巴は分かり易いから、ちょっと見て上げて。」
「分かったわ。」

一花から話を聞いて私達は改めて子ども達の観察を始めた。

「香が近づくだけでぐずってた子がにこにこし始めるのか、尊達も小さい子の相手は得意だと思っていたがここまでではなかったな。」
「香は特に何もしてない様に見えるが。」
「目じゃない?」
「そうか、アイコンタクトだけで…。」
「こっちのモニター見てみろよ、巴が城下町を歩いてるが。」
「城の子を見かけると皆さん何時も嬉しそうだけど、ちょっとレベルが違うかな、ルックスだけなら八人ともタイプが違うとはいえ皆可愛いのにな。」
「これは能力なのか?」
「翔は、得意な事って言ってたけど。」
「これで大人になったらどうなるんだ?」
「楽しみな様な怖い様な。」
「すっかり神の子として…、平八なんか拝んでるぞ。」
「これはこれで平和だから良いだろう。」

今までも子ども達は各国の人達と良好な関係を築いていた、今までそれを特殊な能力によるものとは考えていなかった。
だが、神の子達は私達が思っていた以上の特別な能力を持っている様だ。
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80-孤児 [キング-08]

尊が珍しく私の部屋へ駆け込んで来た。
彼なりに私の立場や仕事を気にしているから、本当に珍しい事だ。

「父さん、子どもだけが五人残っている居住コロニーを和の国に接続して良いかな?」
「えっ、どんな状況なんだ?」
「第一世代が残っていないから僕らが導かなくてはいけないと、マリアさまから言われた。」
「そうか、ここに迎える事に何らかの問題は感じているか?」
「向こうの子ども達が泣いていること以外には何も。」
「和の国成立以来、初めての形だという事は理解してるな。」
「もちろんさ、だから父さんの許しが必要だと思った。」
「接続に問題は無いが。」
「ほんとは時間を掛けて準備するべきだと思う、でも、マリアさまから見せられた映像からは…、気持ち良くないイメージが沢山流れて来る、それを僕は軽く出来ると思う。」
「分かった、城の住人を居住コロニーとの接続予定地点に集めて子ども達を出迎えよう、大人を迎えるのでなければ、大きな問題はないだろう、ただ大勢で取り囲んでは恐怖心を与えてしまうかもしれない、私は三之助に説明するから、尊は香に事情を説明してくれるか。」
「はい、全員への連絡は?」
「今、緊急招集をかけた、子ども達は初めてで戸惑ってるかもしれないからフォローしてくれ。」
「はい、場所は?」
「ひとまず城の正面にした、ゲートの位置は後で変えれば良い。」
「はい。」

とりあえず急いだのは尊が気持ち良くないイメージと話したからだ。

「父さん繋げる準備は出来たよ。」
「分かった、香は大丈夫か?」
「はい、尊から聞きました。」
「麗子がお菓子の用意をしてるからな、」
「まず尊と香が入って状況判断してから指示をくれ、ここにいる全員が尊の指示で動くからな。」
「分かりました、香、手を繋いで行こうか。」

「翔は翻訳機の確認をしてくれるか。」
「はい、まだ言語は増えていません。」
「今まで出会った言語なのかな。」
「望、今までとは出会い方が違う、言葉が通じない事を想定して対策はとれないか?」
「はい、ぬいぐるみは用意してあります、愛は誠達とペットを取りに行っています。」

尊から連絡が入る。
『三郎おじさん、すぐ来て! 怪我してる子がいるんだ!』
「分かった、すぐ行く、三之助救急箱を取って来てくれるか。」
「はい。」
「尊、言葉は通じているか?」
『だめです、聞いた事ない言語で、翔、別チャンネルで送るから分析してくれるか、それと翻訳に関してマリアさまと相談してくれないか。』
「了解した。」
「尊、子ども達の年齢は?」
『三歳から六歳ぐらいだと思います。』
「落ち着いているか?」
『香の顔を見て、さっきまで泣いてた子が泣き止みました、望をお願い出来ますか。』
「了解した、望、頼めるか?」
「はい。」
『八重おばさん、そろそろお願いできますか、お菓子が一緒だと嬉しいのですが。』
「良いわよ、麗子のお菓子はまだだけど、ポッケの飴で良いでしょう。」
「怪我の程度はどうだ?」
『三郎おじさんは、出血してるが命に係わる様な怪我じゃないって。』
「そちらの環境はどうだ、こちらに連れて来る事も想定して準備してるが。」
『怪我をしてる子の処置が済んだ段階で移動したいです、食事、お風呂と着替えが必要な事は間違いないです。』
「分かった、子ども達は怯えていないか?」
『もう、大丈夫です…、その…、怪我をしてる子も香と楽しそうにしてまして…。』
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