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31-住人達 [キング-04]

幸いな事に子ども達もその場にいた。
それが大人達の心を落ち着かせる事になったと思う。
六十二名の大人達はお互いを確認し合った。
目の前に居るのが今の仲間なのだ。

「キング、有難う…、お陰で少し落ち着いたよ、プロテクトのかかっていた記憶…、楽しい物ではないと予想はしていたが…、はは、でも俺達には今が有るんだよな、そしてこの子等には辛い思いはさせたくない、な、八重、そうだろ。」
「ええ、ロック、私にとってここでの生活は…、幻の様な物と感じる事も有ったけど…、過去の記憶が戻った今…、ふふ、まだ全然分からないけど…、あなたと出会えて、仲間達と出会えて…、マリアさまの本心は分からないけど、はは何言ってんだろう、私、でもみんな大好きよ。」
「あの頃…、悲しい事ばっかだったけど必死に生きてた、でもここでだって私も頑張ってるんだから、ほら私達の子は素敵に成長してくれているでしょ。」
「一花…、過去の記憶が戻ったら、お前に対する気持ちはどうなるのだろうって、正直言って不安も有った、でも変わらないよ…。」
「はは、きつい仕打ちだったな、ふ~、俺は落ち着いて来たが皆はどうだ?」
「ええ、三郎、何時迄も子ども達に不安そうな顔をさせている訳にも行かないでしょ。」
「俺はかつて医師だった、精神的にきつい人がいたら相談に乗るからな。」
「三郎は医者だったのか。」
「ああ、専門は内科、今まで全く思い出せなかったのは必要が無かったからだと思う、管理者の力はすごいよ。」
「これは自己紹介のやり直しが必要ね。」
「今日の仕事は休めない作業を除いて休みにしようか。」
「い、いや俺は働きたい、体を動かしていないと頭がおかしくなりそうだ。」
「それは構わないな、餌やりとか欠かせない作業は私がするから、手伝ってくれるか。」
「キング、そんな作業は俺達でやるよ、それより管理者達が俺達に与えてくれたチャンスの場で有るこの国をもっと良くする事を考えてくれ、俺の過去はひどいものだ、でもここではちゃんと子どもを持って楽しく働いている、それはキングのお陰だ、あの英語を話す連中達とも交流して行くんだろ、俺の希望は連中とサッカーの試合をする事だ、頼むよ。」
「びっくりして混乱してたけど、私も大丈夫、嫌な夢は見そうだけど、子ども達の面倒を見てれば今の素晴らしさを感じれると思うわ。」
「キング、今まで以上に国王として俺達を導いてくれないか、各部署のリーダー達も過去に囚われず今まで通りお願いしたいと思うが、なあ皆、それで構わないだろ。」

私達に気を使って話してくれたのは三丁目の住人達だ。
彼らは戦争の前もあまり良い人生を送って来なかったという事だろうか。
何にしても、城の住人以外から前向きな発言が出た事は大きい。
彼等に感謝の言葉を述べ八人での会議をお願いして解散とした。
ほとんどの者がその日予定していた作業へと向かった様だ。
過去を頭に叩きこまれた状態で、今の現実へと。
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32-自己紹介 [キング-04]

城へ戻って八人でテーブルを囲む。

「三丁目の連中に助けられたな。」
「そうね、突然の事だったから混乱したけど、過去の記憶が蘇ったからと言ってここが楽園で有る事に変わりはないわよね。」
「子ども達が戦争という愚かしい行為をしない様に、しなくて済む様にしないとな。」
「衝撃的な記憶の復活だったのに今は…、マリアさまが何かしてくれたのかしら…。」
「かもな、何にしても感謝しないといけないが。」
「そうだな、でも、まずは改めて自己紹介をさせて貰うよ、私は神山慶介、過去の記憶が終わる頃は二十四歳独身、開戦後の話は省略させてもらう、その前は自分で起こした会社の社長でそこそこ稼いでいた。」
「そうか、キングは社長だったのか、納得できるな、俺は医者だったが、開戦後は大して人の命を救えなかったし、ここではその知識が役に立たない…、あの頃は三十六歳だった、ただ、今の感覚はキングの年代と心身ともに変わらない、これは現在の自分を医学的に考察した結論だ、それから過去の名前は捨てようと思う、ここでは三郎、東城三郎で通したいと思う。」
「あっ、それもそうだ、私の過去の名は忘れてくれ、北城大吾で頼む。」
「はは、キングをその名で呼ぶ気にはならないよ、今さら過去の名は、そうだなこれを機に名前を変えたいという人以外は気にしなくて良いんじゃないのか。
年齢も三郎の言う通り怪しい物さ、ここで生まれ変わって全員二十四歳という事にしてくれよ、でないと色々ややこしくなりそうなんだ。
ただ、ここに医師がいるという事に意味は有ると思う、将来三郎の知識が必要になる可能性は否定できないと思うが。」
「あ…、そうだな、ロック有難う、心が軽くなったよ。」
「どういたしまして、自分は研究所の所長をしていた、結構最先端の技術研究だと自負してたが、ここの管理者達のレベルには遠く及ばない、今は彼等の技術をもっと知りたいと考えている、知的好奇心って奴がこれまで以上に湧き上がってるとこだ。」
「それは羨ましいよ、工場長の経験なんて活かせても大したことないからな。」
「ふふ、セブンはしっかり経験を活かして来たと思うけど、四丁目や五丁目の人達からの信頼の厚さは工場長の経験有ってのものじゃないかしら。」
「八重はやっぱり保育とかの?」
「ええ、保育園の園長をしてたわ、でもね色々な制約が有って思う様には出来てなかった、落ち着いて考え始めたら、昔出来なかったことがここでは出来るんじゃないかって、過去の嫌な事を思い出す暇が有ったら、ここの子ども達の将来を考えようって考えてるの、二回目の人生がこんな楽園での生活なんだから頑張るわよ。」
「う~ん、私は微妙なのよね、百貨店の店長っていらなくない?」
「いや、一花、店長としての経験はセブン同様生かされていると思うよ、リーダーとしての器という形でね。」
「何時の日かこの国にも百貨店がオープンする日が訪れるかもしれないよな。」
「ええ、今は労働に対して食料提供と言う形だけど、人口が増えたら…、経済学的な研究が必要な気がするわ。」
「三之助は経済関係だったのか?」
「う~ん、経済というより数学的というか、私は皆さんの様な実績はなかったのですが社会全体のバランスを…、まあ机上の空論になりかねないレベルですが。」
「それでも、リーダーシップを発揮してたよね?」
「人のバランスという自分自身の研究テーマからの無意識の行動だったのかもしれません。」
「わあ~、難しそうでついて行けないかも、キングを愛する麗子さんは皆さんにおいしい物を食べて頂く事だけが生きがいですの。」
「あっ、麗子の事知ってる…、って言うか知ってた、若き天才料理人花柳院静、私、あなたの大ファンだったのに…。」
「それは、芸名ですけどね。」
「どうりで食事が美味しい訳だ、ここを楽園と思わせる原動力だよな。」
「という事はキングと同じぐらいの歳よね。」
「ふふ、前の世界で出会っていたら、やはりキングを選んでたかも。」
「はは、問題はこれから六十二人で自己紹介をする事と、英語を話す隣人達との交流だが。」
「今の私達の自己紹介を参考にして貰っても良いと思うな、基本開戦後の事は心にしまっておく、前の名前や年齢などの発表は自由、でも何をしてたかは教えて欲しいよね。」
「時間が掛かってもやらないとな、隣人とのコンタクトはこの後すぐやろうと思う、彼等も記憶を取り戻したかどうか分からないが、まずは国内を落ち着かせる事を優先したいと話すつもりだ。」
「それで良いと思う、二つの事を同時進行というのは無理が有るよ。」

連絡を取った所、先方も記憶が蘇って来てるがこちら程急速ではないらしい、次回会うのは落ち着いてからという事で一致した。
後は、毎日定時に連絡を取り合う事にした、自動翻訳を使わずに英語でだ。
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33-再構築 [キング-04]

大人達全員での自己紹介後、仕事の再検討。
担当を交代したり作業手順等を見直した結果、作業効率は格段に良くなった。
皆に蘇った記憶はこの島にとって大きくプラスに作用した訳だ。
その余力を使って新な仕事を始める事になる。
まずは木工、子ども達のサイズに合わせた椅子や机を作り始めた者達は随分楽しそうだ。
それと並行して新たな建物建設を計画し始めた、学校だ。
担当者達は嬉しそうに話し合っている。
皆の心には闇の記憶が蘇っている、それを忘れたいが為なのか、闇の記憶によって今の生活がより輝いて見えるからなのか、以前は不満を口にしていた者も真面目に仕事に取り組むようになった。
三丁目の住人からは…。

「ねえキング、子ども向けのサッカー教室を開いても良いかな?」
「はは、むしろお願いしたい、いずれ学校をスタートさせるが、地理の様に教える必要のない教科も有る、その分、スポーツを通してルールについて考える場が欲しい。
もちろんゲームを通して競い合う気持ちを養う事も必要だろう。」
「うん、健全な大人に育てる、豚の世話もきっちりやるからね。」
「助かるよ、作業効率が改善されたとは言え、労働力は子ども達が成長するまで増えないと思うからな。」
「子ども達は手伝いをしたがるから、もうささやかな労働力ですよ。」
「はは、そうだったな、三丁目の子ども達は特に頼もしいって聞いてる。」
「俺達は、人が嫌がる仕事でも進んで取り組める人に育てようって話し合っています、この国が大きくなった時、そんな人がいないと国が回らなくなるでしょう。」
「有難う、極力そういった仕事が減る様に考えてはいるが、率先して大変な仕事を引き受けてくれている君達には感謝してるよ。」
「その分の恩恵は充分受けていますよ、キング。」

仕事も娯楽も急速に充実して来た。
ただ、海を見ながらぼんやりしている者の姿を見ない日はない。
大人達は誰しも過去と向き合いながら、この国をより良くしようと考えてくれている様だ。
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34-国名 [キング-04]

新たな隣人との交流はテレビ電話だけで続けてきた。
これには相手側の事情も有る。
こちらとは違って、少しづつ記憶を取り戻している分、なかなか落ち着かないそうだ。
私達の衝撃的な記憶回復よりはましだと思うが、情緒不安に陥ってる者が多いと嘆いている代表者自身、蘇った記憶が整理されていなくて落ち着かないと話している。
そんな状態でも物事は少しずつ進んでいる。
その一つは国名だ。
今まで王国と呼んでみたりもしていたが、対外的な国名は必要なかった。
それは彼等も同様だったが、しばらくして自分達の国をスコットランドに決定したと連絡して来た、端末の画面表示もコロニー26489からScotlandに変わっている。
我々は日本と主張して良いのかどうか微妙だと感じていた、かつての総人口を考えたら、この人数で日本を名乗るのはおこがましい、そもそも私達が今いるのは日本とは思えない。
仲間達も過去に囚われず新しい国と考えたいとの意見で一致した。
色々な協議の結果、和の国となった。
頭に浮かぶ国名の常識とは少々違うがそんな物は過去の遺物でしかない。
和を以て貴しとなす、聖徳太子関連のこの言葉から複数の国民が推し国民の賛同を得られた。
国名の由来を子ども達に話す時、この国が永遠に平和で有り続ける事を祈って決めた名だと伝えよう。

暦に関してはこちらで使っていた物をスコットランドでも使用する事ですんなり決まった、先方がこれまで暦を意識をしていなかったからだ。
そして新暦六年五月十六日午前十時に先方の外交団八名を国を挙げて迎える事が決定した。
もう一度ゲートの機能を確認。
国家を結ぶゲートは双方のキーを解除しないと通れない仕組みになっている。
相手国の承認なしに足を踏み入れる事が出来ない訳だ。

「ゲートのマニュアルによると双方の合意が有れば通行の条件は変えれるという事だね。」
「音楽村のメンバーと私達は、相手の承認が有れば自由に行き来出来るけど他の国民はやはり時間制限が有るのね。」
「特権階級という事か…、他の国民は良い気がしないだろうな。」
「仕方ないだろう、だが以前よりは反発も減ってると思うし、子ども達の世代からは平等になるだろう。」
「他の国家が成長して交流できる様になった時もこのゲートを使うみたいだな。」
「もうゲートは増えないという事かしら。」
「まずは特権階級同士の相互訪問だね。」
「ああ、歓迎会の準備を進めるか。」
「そうだな。」
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35-貿易 [キング-04]

外交団来訪の日、予定時間通りに八人の隣人たちがゲートから現れた。
まずは車で島を案内、その後、城の大広間での歓迎会。
麗子が中心になって用意した食事と音楽村メンバーの演奏でもてなす。
彼等は五時間ほど滞在した。
その夜。

「革製品のお土産は嬉しかったわね。」
「作り方を教えて貰うか物々交換という事だな。」
「車に驚いてたな、ジョージは車を管理者にお願いする事など考えもしなかったそうだ。」
「その代わりの馬ってのは悪くないと思う、本当の自給自足に近いだろ、誰か乗馬の経験有る?」
「私はちょっとだけ、でも三丁目の連中なら喜んで乗り回しそうじゃない、うちでもマリアさまにお願いして出して貰おうよ、キング。」
「いや、スコットランドで手に入る物はもう出さないと言われた、ちなみにマリア達のテクノロジーを使った産物もこれからは提供されないそうだ、自給自足のレベルが上がったという事だ。」
「そっか…、でも木曽馬とか指定したらどうかしら、種の保存とかを理由にして。」
「それは試してみる価値が有るな、今度コンタクトが取れた時に頼んでみよう、ただ物に関してマリアを頼る事は少しずつ出来なくなって行くと思う、今回蘇った記憶から頼んだ物はほとんど断られているからな。」
「いよいよ本格的な自給自足になって行く訳か。」
「代わりに貿易が始まるのね。」
「スコットランドから革製品や馬を輸入するとしたら、こちらからは何が出せるかな。」
「美味しい料理と音楽村メンバーの演奏、最高の料理人も音楽家も向こうには居ないそうだ、演劇の集団は居るそうだがね。」
「交流出来る国が増えれば文化面が充実して行くという事かしら。」
「その可能性は有るね。」
「物と物、もしくはサービスと物との交換を考えると、交換のレートをどうするかが問題になるわね、今は物に余裕が有るから気にならないけど、先々を考えたら何らかの基準が必要にならないかしら。」
「労働時間を基準ってどうかな、細かく計算すると難しくなるけど。」

今の体制ならスコッランドの住人全員を養う事も可能だ、マリアがどこかへ持って行く分が少し減るだけで。
だが将来を見据えて、そう、私達は人口が増えた時の事を考えて討論している。
スコットランドと良い関係を築き上げ協力して行ければと思う。
もちろん争い事は問題外だ。
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36-経済 [キング-04]

スコットランドとの貿易は我々城の住人にとって大きな課題だ。
だがそれだけではない、世界のシステムを構築して行く必要が有る。

「今後、他の国家と係わっていく事を考えると物々交換ではなく金銭による取引を考える必要が有ると思わないか、今は問題なくても将来を考えたらさ。」
「問題は紙幣も貨幣も簡単には作れないという事ね。」
「今の環境下に於ける通貨の理想は、その物にも利用価値が有って持ち運びが楽で保存に困らない物かな。」
「そんな都合の良い物有るのか?」
「昔なら米という選択肢も有ったろうが、先方は米を作ってないからな。」
「麦ならどうかしら。」
「すべての価値を麦を基準に置き換えての取引か。」
「相手を信用しての国家間取引なら伝票で良いと思うが、う~ん、この先国家間に貧富の差は生まれるのかな。」
「国内では住環境に関して差は有るが他は平等だよな。」
「国家間でも貧富の差が出ない様にはして行きたいね、争いを避ける意味でも。」
「そうなると共産主義的な形になるのか。」
「現状は私達が特権階級だという事以外、共産主義の理想社会じゃないのかしら。」
「子ども達が、この環境下できちんと上を見て行けるのか、性善説を信じるか否か。」
「俺達は大きな失敗を経験してるからな。」
「自由競争による発展か、全てを共有して全体の安定か。」
「競争で後れを取った人の救済、共有の中での不正対策。」
「一つの問題として、国家の規模、他国を含めた世界の規模がどこまで大きくなるのかという事が有るわね、住める所に限りが有るのなら産児制限をしてでも人口を抑制する必要が出て来る代わり、村落共同体的な社会体制で問題ない。
でも、もっと広い世界が有るのなら、人は本能的に集団の拡大を目指すと思うわ。」
「マリアさまの方針はどうなの、キング?」
「記憶のプロテクトが外れてから、少しずつ将来に向けての話はしている、ただスコットランドとの関係がどうなるかによって流動的だとしか教えて貰っていない。」
「理想はうちとスコットランドとが一つの国になる事じゃないかしら。」
「今ならスコットランド地方と和の国地方みたいに出来るかもな、まあ、方言は東北と沖縄以上に違うけど。」
「外交担当と将来設計とかの担当が必要になって来るわね。」
「外交は三之助、国家計画はセブンにお願いしたいと思うが。」
「うん、俺は賛成、二人はどうだ?」
「良いわよ、経過報告を夕食会でして行くから意見を返してね。」
「国家計画に関しては国民から広く意見を求めて問題ないよな。」
「ああ、今なら建設的な意見が主になると思う。」

社会の基盤作り、今なら試行錯誤が可能だと考えている。
国の規模が大きくなったり、交易相手国が増える前により良い形にしておきたいと思う。
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37-研究 [キング-04]

スコットランドとの交流は大きなトラブルもなく進んでいる。
初めて彼の地を訪れた日の夜。

「改めてキングのずうずうしさに乾杯したくなったな。」
「セブン、それは褒め言葉なのか?」
「もちろんさ、ジョージは土地を広げるお願いをする時におよその面積を指定したそうだが、キングは?」
「もちろん可能な範囲で最大と言い続けてきた。」
「この無駄に広い城は?」
「キングと名乗るからにはでかい城に住んでやろうと。」
「マリアさまは呆れてなかったの?」
「特にはね、あの頃は他にする事もなかったし。」
「二か国合計百二十八人の中で、そう考えたのはキングだけだったのよね。」
「マリアさまは研究と話していたそうだけど、ここまでする必要はなかったよな、スコットランドの規模でも充分暮らして行ける訳だから。」
「研究か…。」
「精神状態まで管理されてるから微妙だね、昔の俺はこんなに良い奴じゃなかった。」
「いや、ロック、そうでもないらしいぞ、記憶が少しずつではなく一気に戻った事をマリアに尋ねたところ、我々が英語を理解出来るという事が見落とされていたそうだ、珍しく謝ってくれたよ。
英語が鍵になって記憶が解放されてしまったということだ。
で、その時に我々を落ち着かせてくれたのか、と問うたら、そういった事は一人暮らしの時に少ししただけだと、私の記憶に残る自分と今の自分とでは性格すら違うと話したら、環境の変化によるものではないかと。」
「そう言われると、昔はこんなに幸福ではなかった、愛する妻と子ども、そして仲間達、性格が変わっても不思議ではないか。」
「老化が進んで死亡した者の事も答えてくれた。」
「なんて?」
「彼等の役割が終わったからだと。」
「役割か、二人ともこの国にはあまり貢献してくれなかったよな。」
「二人は居なくなったけど、その遺伝子は残ったわ。」
「そうか、元々、本人がこのコミュニティに必要だった訳ではなくその遺伝子が研究上必要だったのかもしれないな。」
「実際の所は分からないが可能性は否定出来ないね。」
「自分がマリアさまの立場だったら当たり前の様に、同じことをしていたかもだな。」
「小さな村を作ってあげました、あなた方はどんな村にして行きますか、但し大人しい人ばかりでなく変数としての遺伝子が入っています。」
「大人しい人ばかりなら弱くなるだろうな、人格にバリエーションが有ってこそ強いコミュニティーになると思う。」
「それを狙っての事なのか、というより、そんな遺伝子を持った人物をきちんと管理できる体制に出来るかどうかを試されてる一面も有るよな。」
「遺伝的要因より環境的要因の方が大きくないかしら。」
「だな、子ども達の環境には最大限の配慮をして行こう。」
「一つの村レベルから、ふふ、二か国に増えたとは言え規模はたかが村二つよね、でも国家という発想でシュミレーションして、マリアさまの意図に関わらず外交交渉して行く事になったのよね。」
「自分達の記憶に残る国家形態、社会経済、その他諸々を見直してみろという状態だよな。」
「私達はマリアさまの研究材料、実験動物かもしれないけど、より理想的な社会環境ってのを人類のDNAで実現出来るかって、私も研究者として実験に参加してる気分だわ。」
「とにもかくにも子ども達に良い環境を…、だがこの問題って難しいと思わないか、理想的に平和な世の中で、さらなる進歩が望めるかどうか、否、進歩する事が良い事なのかどうかも分からないだろ。」
「物質的進歩ではなく、精神的な進化の道という考え方もあるな。」
「普通の生物はただ生存して子孫を残す、本能のまま生きていれば良いが、我々はそれだけでは満足しきれない。」
「人が人として生きる根源的な命題、答えは出そうにないわね。」
「だな、でもまずは集団の形成、言語も習慣も異なる人達と良好な関係を築き上げるという課題が目の前に有る。」
「そうね、まずはそこから考えますか。」

我々に与えられた特殊な環境はマリア達の研究の為に形成されたものだろう。
だが、この場は私達にとっても実験研究の場だと言える。
そう思わせるのは城の住人達の冷静な考察による所だ。
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38-社会 [キング-04]

「マリア達の研究は我々の社会が一つのテーマなんだろうな。」
「そうね、まずは個、一人で始まったここでの生活、殺し合わない事を確認した後に八人のコミュニティを形成、この段階でコミュニティによる差が生じた。」
「三丁目と私達とでは雲泥の差だったわね。」
「人選は意図的だったと思うな、二丁目は今ひとつ分からないが、他は得意分野の近い人達が集められてるよ。」
「全員がデザイナーとかだったらきつかったでしょうね。」
「はは、確かにそうだ、まあ俺達は同じ様な考え方をしてるから楽だと言えるが。」
「私達の会議って…、私が昔経験した会議は利害関係が複雑だった事も有ってか、すぐ上げ足の取り合いみたいな事になっていたけど、ここのメンバーは常に反対の考え方も意識しているし、相手の意見を尊重してるよね。」
「俺達は意図的に集められた、そして俺達の考え方が、国民にも理解されて国内は運命共同体としてまとまった。」
「それぞれが自分の役割を果たそうと考えてくれる様になったわね、私達はマリアさまの意に沿った考え方をしてる? させられている?」
「蘇った記憶が本物なら、マリアさまに認めて貰えたという感じだがね。」
「さて、ここにスコットランドが関わって来た、どうする? どうなる?」
「基本的には相手を尊重しつつ仲良くなるって事でしょ。」
「それには?」
「相手を知るって事ね、たかだか数十人の事だから全員と対話出来る、幸い私達は彼等の言葉が分かる。」
「家族単位で昼食会にご招待ってどうかしら、一回に二家族ぐらいなら、こちらの負担も少なくて済むかな、音楽村のメンバーと私達で分担しておもてなししながら色々教えて頂いておけば今後の対応が楽になると思うな。」
「麗子の料理を食べながらなら、少し踏み込んだ事まで聞き出せそうだ。」
「その情報を元に人間関係を築いて行ければより良い社会が構築出来るかもな。」
「特に不満の部分を聞き出さないとな、三丁目の連中から、とことん不満を聞き出せた事によって今の関係が有る、だが二丁目の連中は未だに微妙な部分が残っているだろ。」
「二丁目の謎はいずれ解明しないと足元をすくわれそうな気もするが。」
「この際だから、スコットランドの人達をもてなす時には二丁目住人に手伝って貰うか。」
「そうだな、何かの弾みで謎が解けるとまでは行かなくても…、現時点で彼等が不可欠な作業はない…、な。」
「再編後の作業効率アップで二丁目住人の責任作業は著しく減ったわね。」
「ロック、二丁目の調査を担当してくれないか。」
「ああ、キングに言われなくてもほっとけない、マリアさまによる大きなトラップかもしれない、という事はスコットランドにも同様のトラップが隠されている可能性が有る、ちょっと作戦を練ってみるよ。」
「こうなって来ると、会議を音楽村の連中にも極秘にしていて正解だったね。」
「そうだな、まあ我々の子ども達の世話をお願いしたいという意味合いも有ったが。」

一人で考えていても気付かない事が、この仲間達から出て来る。
スコットランドの人達との交流と謎が残る二丁目住人の見極めを同時に進める事となった。
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39-宗教 [キング-04]

二丁目住人の謎に関してはすぐに一つが判明した。
布教活動を始めたのだ。

「宗教とは思いもしなかったな。」
「ああ、でも不思議ではないな、心の拠り所という側面が有るだろ。」
「クリスマスを楽しんで、正月には神社へ初詣、お爺さまのお葬式はお寺だったけど、特に信仰心はなかったわ。」
「私は唯物論者だったから初詣にも行かなかった、人混みも嫌だったが。」
「念のため各自の宗教観を教え合っておいた方が良さそうだな。」
「私は麗子と同じ、イベントだけ参加って感じかな。」
「俺もだ、同じじゃないのは唯物論者のキングと…、三郎は?」
「ああ、皆とそんなに違う訳ではないのだが、宗教について考察した事が有る。」
「とりあえず宗教を原因としたトラブルはこの八人とは無縁の様だな、三郎の考察を聞いておきたいと思うが。」
「簡単にまとめると、宗教が人類にもたらして来た良い面としては、セブンも口にした心の拠り所という事が有ると思う、人間誰しも死を迎える、死を不安に思うのは本能的な事だと思うが、死後の世界を経験した者はこの世には存在しない、そんな死でも宗教の都合によって作られた死後の世界を尤もらしく説かれれば信じて心の安らぎに繋げてもおかしくはないだろ。
そして道徳心の向上だね、社会にとって良い行いをする事が、良い来世に繋がると多くの宗教が説いていると思う。
だが、宗教が私利私欲の人によって曲げられ利用されて来たのも事実だろう。
キリスト教、仏教、イスラム教等がそれぞれ多くの宗派を持っているのが一つの例だ、つまり自分の都合によって解釈を変えて来た訳だ。
それぞれ根本の教えはすばらしいものだったろうがね。
まあ、長い話になりかねないので、二丁目の問題に戻すと、問題点は布教活動を始めた二人が違う宗教を信じているという事だ。
彼女達の布教活動がすぐ大きな障害になることは無いと思う、キング程の説得力を持ち合わせていないし、昔属していた宗教団体内でもリーダー的立場にはなかった人達だろう。
ただ、この先二つの異なる宗教によって国民が対立する事は避けたいと思う。
今は早く天に召されたいと考えない限り大きな争いにはならない状況だが、子ども達はどうだろう。
親に洗脳されて科学的な論理的思考を阻害され、自分と違った思想に対して攻撃的になる可能性は否定できないと思う。
そしてもう一つ…、こちらの方が厄介なのだが、スコットランドだけでなくこれから出会うであろう国の人達は、それぞれ違った宗教を信仰しているであろうという事だ。」
「宗教が原因で戦争にもなったな。」
「まあ、宗教の違いは口実だったのかもしれないが。」
「結構大きな問題だ、考える時間が必要だと思う。」
「だな、とりあえず明日の夜まで考えてみるか。」

二丁目住人による布教活動がなかったら他国の宗教まで目が行かなかったかもしれない。
宗教の違いによる対立をこの世界で起こしてはならない、仲間達の顔はそう語っていた。
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40-社会規範 [キング-04]

翌日、宗教の問題に関する会議の口火を切ったのは三之助だ。

「宗教と死は切り離せないと思うの、死と共に人の精神とか心はどうなるのか、科学的に考えれば死によって停止して消えるのでしょうけど、それだとちょっと寂しくは有る、そこで宗教の登場。
でもこの世界では昔いた世界と大きく違う事が有るわ。
それは管理者の存在、キング、亡くなった二人がどうなったかマリアさまに訊いて貰えないかな、肉体だけでなく脳内のデータも含めて。」
「ああ、何となく三之助の考えてる事は分かる。」
「でも教えてくれなかったら?」
「私達で作っちゃえば良いのよ、肉体は形を変えて再利用されるが記憶はマリアさまのデータバンクに保管される、より質の高い記憶や能力は人類をより高次元の生命体とする為に再び活用されるが、社会秩序に反する低次元な考えを持つ者の記憶は残す必要がなく抹消されるとか、どう?」
「うん、新しい世界になったのだから新しい宗教って考えていたが、なかなかの出来だな。」
「それ以外の部分は二丁目の二人が信仰してる宗教の共通点と異なる点を整理して作れば良いわね。」
「スコットランドの連中もカトリックとプロテスタントに分かれているって話していたから、第三者の視点で科学的に分析したら違う物が見えて来ないかと提案しておいた、我々が双方の主張を聞いて質問して行くという形、うまく行けばこの世界共通秩序作りへ向けての足掛かりにならないかな。」
「科学的考察による宗教の融合か、差別のない宗教なら可能かも。」
「特権を振り回す輩が…、他の国には誕生してるのかな。」
「国家成立の過程でコロニー間格差は生じているでしょうね。」
「まだ見ぬ国を心配するより、まずは手の届くところから考えないか。」
「そうだな、宗教に関してはデータベースに一切なかったが、ロック、皆の考えをどう思う。」
「ああ、良いと思うその方向で動かさせて貰うよ、和の国とスコットランドが同じ社会規範で行動できる様になれば先々楽になると思う、ただ、相手を説得して行く場面ではキングの力を借りたいが。」
「もちろんだ。」
「いっそ、キングを教祖様にして新興宗教でも始めるか。」
「はは、そいつは面白いな。」
「余計な対立の元になりそうだから遠慮させて貰う。」
「残念ね、どうやって崇め奉るか考えるのもイベントとして面白そうなのに。」
「所詮おもちゃなのか私は。」
「でも、ここへ来てからクリスマスも初詣もなかった、子ども達の誕生日ぐらいよね。」
「昔は宗教がらみのイベントが娯楽だったのかもな、新たに祭りでもやるか?」
「良いわね、何かオリジナリティーあふれるのをやりたいわね、国民の声も聴いて。」
「宗教の話はどうする?」
「我々の統一見解を国民に示すべきだろうな、三之助がでっち上げた部分だって話して良いかも、でもまずはマリアさまの話を訊きたいね。」
「そう言えば二丁目では葬式をしたのかな?」
「息を引き取ってしばらくしたら消えたという事だから、そんな暇はなかったかも、結構嫌われてたし…。」
「儀式的な事も考えて行くべきなのかしら。」
「儀式って必要なのか?」
「心の区切りをつけるという側面は有ると思うわ。」
「堅苦しいのは嫌かも。」

ひとまず宗教に関してはロックが動き始めた、これから出会うであろう国家を想像するとかなりの難題と言える。
だが先手を取れれば良い結果に繋がるだろう。
我々にどれほどの時間が有るのか分からないが。
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