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21-音楽家 [キング-03]

三丁目の連中も次第に馴染んで来た。
馴染まざるを得ないと彼等も気付いたのだろうが、最近では結構楽しそうに働いている。
明るく開放的な環境が彼等を変えたのかもしれない。
一日二名だった制約も徐々に緩和し、今は八名全員が来ている。
そんなタイミングを見計らってか、マリアから三つ目のゲートを開くと宣告された。
転校生を迎える気分だと笑う者もいる中、全員で迎える。
二十四名が緊張の面持ちで待ってる所へ開いたゲートからは、やはり八名の男女が現れた。
ただ、彼等が今までの隣人と大きく違っていたのは、その手に楽器を持っていた事だ。
にっこり微笑むと演奏を始める。

「あっ…。」

曲を聴きながら二十四人の観客達は瞳を濡らし始める。
忘れていた感覚。
ここでは誰もが鼻歌すらなかった事に気付く。
音楽というものの存在が記憶の中に埋もれていた様だ。
曲が終わるとバイオリニストが話し始める。

「初めまして、音楽村から来ました、よろしくお願いします。」
「美しい演奏、有難う御座います、ここのリーダー、通称キングです。」
「八代です、立派なお城ですね。」
「普段も楽器演奏をされて来たのですか?」
「はい。」
「自給自足は?」
「私達は、この島で採れた食料を分けて頂いていると聞かされています。
たまにこの島の映像を見せて貰ってましたから、お邪魔させて頂く事が出来てとても嬉しいです。」
「私達とはかなり条件が違うみたいね。」
「音楽をお届けする事が私達の役目と聞かされていますから、さしずめ宮廷音楽家といった所でしょうか。」

話を聞いてみると二丁目三丁目とは随分違う生活をして来た様だ、自給自足より美しい演奏。
すでに四組のカップルが出来上がっていて、穏やかな笑みを浮かべている所を見るとこの島の住人と同様幸せに生きていると感じられる。
ゲートの条件も他とは違いフリーだという。
扱いの差がトラブルに繋がる可能性は否定出来ないが、彼等とならうまくやって行けそうだ。
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22-音楽村の住人 [キング-03]

音楽の有る生活は心に安らぎを与えてくれる様だ。
随分厚遇されている音楽村の住人に対して他の連中から反発が出ないか心配していたが、トラブルが起きなかっただけでなく三丁目の住人達の表情が柔らかくなった気もする。
音楽の効果なのだろうか。
音楽村のメンバーは、演奏だけでなく簡単な作業を手伝ってくれている。
歌を教えてくれるメンバーも。
曲はオリジナルなのか記憶の底に残っていた物なのか微妙だという事だ。

「キング、良くこんなホールまで作って貰いましたね。」
「はは、一人だけの王国には必要ないとは思ったが、まあ城を建てる事が目的だったので。
ただ音響とか考えてないから、八代の様なプロには不満かもしれない。」
「そんな事ないですよ、演奏しやすいホールです。」
「マリアの配慮なのか、それともこうなる予定が有ったのか、管理者は曲について注文とかしましたか?」
「いいえ、曲に関しては何も。
こちらが楽器を要求したら出してくれたのですが、記憶がおかしくなってるからか始めはうまく弾けなくて、演奏が形になって来た所で八人が音楽村に集められたと言う感じです。
嬉しかったですね、演奏を聞いてくれたり一緒に演奏出来る仲間が出来た訳ですから。」
「成程、一丁目のメンバーと音楽村のメンバーはここでの生活に満足してる、だからゲートフリーなのかもしれません。」
「我々は演奏を聴いてくれる人がいた方が嬉しい訳で、ここへ来れる日を心待ちにしていました。」
「二丁目や三丁目の事は御存じだったのですか?」
「彼等がここへ来てからです、三丁目の人達が登場した時はハラハラドキドキしながら映像を見てましたよ。」
「はは、隠しカメラは未だに見つかっていませんが、我々の夜の娯楽もご覧になったのですか?」
「えっ、夜の風景は見せて貰ってませんが、どんな娯楽が有るのです?」
「海水浴ですよ、水着は有りませんが。」
「わっ、皆さん一緒にですか?」
「カップルだけの時も有れば全員でという事も。」
「皆さんの仲が良い訳が分かった気がします。」
「運命共同体ですからね。」
「はい、我々もその運命共同体の仲間に加えて頂けませんか。」
「勿論です、正直言って他の隣人達はまだ微妙なのですが、音楽村の皆さんには私どもの感性と近い物を感じています。」
「よろしくお願いします。」
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23-暦 [キング-03]

音楽村との出会いから間隔を空けて四つ目のゲートが開き八人の隣人が増えた。
特に問題もなく彼等が馴染んだ頃、一花が出産した、元気な男の子だ。

「ほんとに可愛いな、俺達の希望の星だ。」
「そうね、一花、皆で手伝うから、ゆっくりしててね。」
「有難う。」
「セブン、名前はどうするんだ?」
「なあ三郎、苗字の概念は記憶に残っているか。」
「ああ、ここでは必要なかったから気にしてなかったが。」
「俺達は本名という奴を苗字付きで考え始めてるんだ、セブンはニックネームという事にしてね。
この子の名前と一緒に俺の名も、一花という名前は気に入ってるからそのままだけど。」
「あ、良いわね、ねえキング、私達もどうかしら。」
「苗字か、そうだな…、どうせなら私達四組何かしら関連する、例えば東西南北を苗字に入れてとかどうだろう。」
「うん、面白いね。」
「そうね、でも簡単には思い浮かばないわ。」
「どうだろう、これを機に戸籍も作らないか。」
「良いけど私達の年齢は不詳だし今が何年なのかも分からないわね。」
「太陽も月も、記憶の片隅に残る物とは随分違うしな。」
「となると、どこかを基準にして自分達の暦を作る事になるが。」
「私達がこの島で八人揃ってから、今日で五百二十三日目だけど。」
「三之助は記録してたのか?」
「ええ、日記を付けてるから、その流れでね。」
「へ~、じゃあこの島に八人が揃った日を基準にするとして、週や月は? 一週間は七日か?」
「一週間は七日、一月は四週間、一年は十二か月でどうだ。」
「そうすると一年は三百三十六日になるけど。」
「俺達の寿命は分からないけど、形の上では記憶に残る暦より長生き出来るという事だな。」
「はは、まあ良いんじゃないか、分かり易くて、将来子ども達から、どうして二月だけ短いのと聞かれたら返答に困るだろ。」
「じゃあ、日記を元にそこから計算して今までの事、何時ゲートが開いたとか表にしてみるね。
カレンダーも作れば、作業予定表をもう少し分かり易く出来ると思うわ。」
「あっ、どうして今まで気付かなかったのだろう、カレンダーなんて言葉聞いても何の違和感もないのに今まで意識してなかった、これまでだって有れば便利だった筈なのに思い浮かばなかった。」
「そうよね、私達の記憶って不思議だわ、何かのきっかけで蘇る、私もずっと、ここへ来てから何日目だって記録してたのに暦の話題が出るまでカレンダーの事忘れてた。」
「俺達は少しづつ記憶の隙間から、なくした物を取り戻しているという事なのかな。」
「すべての記憶を取り戻すのは怖い気もするけど。」

生活が安定して来ている今、改めて亡くしている記憶が私たちにとっての大きな問題となっている。
私達はいったいどこから来た何者なのか。
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24-秩序 [キング-03]

ゲートは間隔を空けて増えて行った。
八人ずつ大人が増えた訳だが、七つ目のゲートが開いた頃、子どもは十八人になっていた。
我々の集団が百名を超える日も近いだろう。
子ども達の為にもルールを明確にしておきたいと言い始めたのは三郎だ。

「我々の記憶の中には社会のルールという物が存在している、だが子ども達には色々教えて行かなくてはならないと思う、その為にはここでのルールを見直して確認しておいた方が良くは無いだろうか。」
「三郎の言う通りだ、幸い管理者による罰が存在しているお陰で島は平和だが、子ども達は何も知らないのだからな。」
「二丁目の環境が著しく悪化したのは九兵衛と武蔵の対立による所、そんな事をどう子ども達に伝えるかが問題よね。」
「そうだな、相手に怪我をさせる程の大喧嘩、罰はコロニーの連帯責任。」
「俺達には直接的な影響はなかったけど、二丁目の他の連中が可哀そうだよな。」
「子ども達が悪い事をした時も罰を受けるのかしら。」
「罰に関係なく社会の構成員として好ましい人物に育って欲しくは有るな。」
「ルールとしては、まずは殺すな、だろ。」
「他人を傷つける行為はだめ。」
「細かいルールより、ここで皆が平和で心安らかに暮らして行ける様に取る行動を推奨し、反する行為を禁じるというのはどうだ、判断基準としてだが、そこに照らし合わせて自分の行動を考える。
もちろん幼少期は判断を間違える事も有るだろうが、そこは我々が教えて行く。」
「成程、キングの考えは、基本的且つ包括的な法ということかな、それなら主体性を育てる事に繋がるな。」
「でも大人達はどうかな、各コロニーが罰を受ける前に、こちらで罰則を決めてでも止めさせる体制が出来ていれば、二丁目の環境があそこまで悪くはならなかったと思うのだが。」
「そうだな、しばらくは九兵衛と武蔵の一件が戒めになるけど時が立てば忘れてしまうかもな。」
「反社会的行為に対して、最後の判断はキングにお願いするってどうかな。」
「反感を持つ奴が居ると思うが。」
「民主主義を口にする奴は今でも居るけど、彼等は出稼ぎ労働者でしかない、それよりこれからここに住むであろう次世代の子ども達の事を考えたら、国家のシンボルは必要だと思うんだ。
俺達が甘いからか、キングをなめてる奴もいる、それが次世代へ伝わる事は秩序維持の為にも阻止すべきだと思うのだが。」
「ここに係わってる全員がこの島の恩恵を受けてるわ、王国に不満が有ったら自分達のコロニーで一日中生活していて頂きましょうよ、私達の楽園がより快適になるように。」
「出稼ぎ連中には、王国の正式な国民になりたいかどうか決めて貰えば良いんじゃないかしら。
生活は大きくは変わらないけど気持ちの問題、ロックどう?」
「そうだな俺から話してみるよ、国民とならなくても、今まで通りの出稼ぎを認める形でね。」

共に働いてはいたが音楽村以外の隣人達とは感覚的なズレが有る。
ロック達の指示に従って働いてくれてはいるが、それは食料を得る為で有り、昼間を環境の良い所で過ごす事が目的。
彼等の中には島での自分の立場に対して不満を口にする輩も、残念ながら自分の能力の低さに気付いていない者がいる訳だ。
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25-マリア [キング-03]

七つ目のゲートを利用する隣人達が島の暮らしに馴染んで来た頃、大きな変化が有った。
各コロニーの管理者がキングに従えとの言葉を残して、呼びかけに応じなくなったのだ。

「キングに従え、つまりはマリアがここの最高権力者という事か。」
「管理者は、始め八つのコロニーの大人達全員に一人ずついた、そこから俺達がこの島に来ることになって七人減った様に、他のコロニーでも減った、そして残ったのはマリアだけ。」
「はは、彼らはマリアとのゲームに負けたのかな。」
「可能性は有るな、だが音楽村は?」
「ゲーム中の賞品だったりして。」
「実際の所は分からないが、結構当たってるかも。」
「ゲームは続くのかしら。」
「さあな、だが九兵衛は早速、門限破りを試みて痛い目を見たそうだな。」
「ああ、瞬時にコロニーへ戻された後はゲートを通れなくなり、そして著しく老化が進んだそうだ。」
「前から感じてたが武蔵と二人は一気に老けたよな、初めて会った頃は俺らと変わらなかったのに、今じゃ。」
「罰なのね、総じてキングに反抗的な連中は老化が進んでいると感じてるけど。」
「だね、本人達は気付いているのかな。」
「出会った始めの頃に俺達を困らせてくれた三丁目の連中は、仕事熱心になってキングを敬う様になったからか全然変わっていないだろ。」
「という事を考えると、今からでも遅くないと思うけど。」
「悩ましい所では有るな、俺達が特権階級の如く振る舞ってでも反抗的な連中を抑え込んで行動を制限していたら彼らの老化は進まなかったかもしれないよな。」
「やむを得ないだろう、集団に於ける自己責任の範疇、記憶の狭間に残ってる法と照らし合わせて違法行為とまでは行かなかった、ただ真面目に働いてる連中を不快な気分にさせてくれた事は事実だが。」
「ゲームなのかどうかは不明だけど、マリアは楽園をさらに暮らし易くしたいと考えている節は有るわね。」
「この先どうなるのかな。」
「何時かは分からないけど次のゲートが開く可能性は否定できない。」
「今後考えられる試練は?」
「ゲートからどんな人が…、否、人じゃなかったりして。」
「余り考えたくないけど否定も出来ないわね、でも我等がマリアさまは今まで無理な要求はしてこなかったし、私達には甘いから。」
「信じるしかないね。」
「だな。」

マリアと話す機会はめっきり減っている、その必要がなくなって来ているからだ。
他の管理者が抜けた時もマリアは何のコンタクトもとって来なかった。
ただ、老化が進んでいる者達の姿によって、私達は管理されている事を実感させられている。
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26-子ども達 [キング-03]

八つ目のゲートを開ける話はなかなか来なかった。
私でさえマリアの存在を忘れてしまう程、特別な事のなかったこの期間は、子育ての為にマリアが与えてくれたのかもしれない。
私達は、子どもの誕生や成長を楽しみながら過ごした。
だが、生まれ出づる者有れば死に逝く者有り、九兵衛と武蔵が相次いで亡くなった。
二人とも驚くほどのスピードで老化が進んでいた。
九兵衛の最後は面倒を見てくれていた者に何かしら不満が有ったのか、怒鳴りつけた途端苦しみだして息絶えたという。
これで、大人は六十二名に減ったが、子どもは五十三名になっている。

「子ども達を見てると何となくコロニー毎の特性が出てる気がするわ。」
「へ~、麗子どんな風なんだ?」
「城に住んでる私達の子ども達は、言葉を覚えるのが早いみたい。
音楽村の子達は音に対しての反応が他の子達とは違ってて、運動能力は特に三丁目の子達が高いの。」
「成程、他の子達は?」
「四丁目の子達は積み木遊びが好き、五丁目は動物が好きみたいな。」
「あっ、それだと親達の能力を引き継いでいる感があるな、それぞれ秘めた能力がまだ有るのかもしれないが。」
「そうだな、まだ小さいから変に決めつけずに才能を伸ばしてやりたいところだ。」
「二丁目の子はどうする?」
「厄介者二人の死と引き換えに環境が改善された様だから大丈夫みたい、大変だったら預かる話はして有るけど。」
「子ども達は夜もここで過ごせるとは言え、まだ母親が必要だろう」
「八重に懐いてる子が多いから、八重に余裕が有ったら大丈夫じゃないか。」
「そうね、年長の子達は下の子を気遣ってくれるし。」
「三歳でも思いやりの心が芽生えている、教育の賜物って事か。」
「八重、有難うな、みんな良い子に育ってる、ただ二丁目の子達はちょっと微妙だな。」
「ええ、遺伝か環境か…、早目に手を打つ必要が有るわね。」
「ちょっと八重と一緒に親達の話を聞いてみて、手を考えるよ。」
「ロック、仕事が増えても大丈夫か?」
「ああ、仕事の方は俺抜きで回る様に成って来たからな。
最近は、体を動かす作業は自分達でやるからって三丁目の連中が率先して働いてくれる、他の連中も指示する必要がなくなってきた。」
「その余力を子ども達の為に使うのであれば誰も文句は言わないと思うわ、キングに反抗的だった連中も早死にしたくないと思い始めたみたいよ。」
「でも未だに、この島で昼間過ごせるのはキングのお陰だって事に気付いてないよな。」
「子ども達には正しく知って欲しいわね。」
「やはり学校の設立とそのカリキュラムは今から考えて行かないとな。」
「ああ、ここの子達は全員俺達の子だ、親はともかく子ども達は幸せに暮らして欲しい。」
「幼児期は私が担当という事で良いかしら。」
「ああ、八重が適任だ、やはり知識的には幼児期止まりなのか?」
「ええ、蘇って来る記憶からは算数とかを教えた経験はなかったみたいなの。」
「算数か、なあキング、データベースにはそういった情報はないのか。」
「最近確認した所ではなかった、マリアはまだその必要がないと考えているのかもしれない。
記憶を辿ってカリキュラムを作ろうとは思っているが、近い内に皆で記憶の掘り下げをして教科書を作るか?」
「算数だって教え方一つで楽しくもつまらなくもなる、算数は俺が担当するよ。」
「三郎は計算が得意だもんな。」
「得意分野か、他の国民にも相談してみるか。」
「そうだな。」
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27-記憶 [キング-03]

子ども達の為の学習プログラム作成に向けて国民の声を聞いた事から思わぬ話が出て来た。

「三丁目の連中からサッカーをしたいと言われた時は驚いたな。」
「ええ、スポーツの事なんて全く頭に無かったわ、言われて思い出しビックリするパターンだったわね。」
「今までの娯楽といえば海水浴と釣り、後は音楽鑑賞と歌を歌う事ぐらいだったからね、ボールさえ有れば城の芝生広場でやれる、子ども達の遊びとしても良いと思うけど。」
「ボールが問題ね、ルールも王国特別ルールにすれば良い訳だから正式なボールでなくても良いとはいえ…。」
「大人達全員に相談かな。」

大人全員に相談をしたところ、六丁目の住人が作れるかもしれないと名乗りを上げてくれた。

「なあ、俺達の知らない事を六丁目の住人二人が記憶していたという事は、他の知識も誰かの脳に有るという可能性を秘めているよな。」
「そうよね、元々六十四人はそれぞれ違った情報を持ってここに集められたかもしれない、そう考えると二人の死は私達にとって損失だったのかもしれないわね。」
「まあ、何を失ったのかすら分からないがな、残ってる記憶、蘇った記憶を出し合う作業はすべきだと思うな。」
「早急に進めたいところだ。」
「ああ、それによって分担を見直すべきかも。」

我々の意に反して、この作業には時間を要した、否、あまり成果が上がらなかったと言うのが本当の所だ。
私達の記憶は何かしらのきっかけが有って初めて蘇って来る。
きっかけがないと自分が何を知っているのかさえ分からない、それがここでの特性なのか人間本来のものなのかも分からないが。
それでも…。

「何かね、昨日音楽村メンバーの演奏を聴いてたら踊りたくなってさ。」
「踊り…、うん、そういうの有った…、でも良くは覚えていないな。」
「難しく考えなくて良い気がする、曲に合わせて体を動かす…、キングに相談してみようかな。」

食生活は安定している、だが私達はただ生きている存在では無い様だ。
音楽を愛し踊りを愛しスポーツを愛する心。
僅かながらに蘇る記憶によって、少しづつ生活が豊になって来ていると感じる。
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28-プロテクト [キング-03]

ここで最初に生まれた一花達の子が我々の暦で四歳になった頃、久しぶりにマリアからの呼びかけが有った。
内容を城の住人達に知らせる。

「次に現れるゲートは今までの物とは大きく異なるそうだ。」
「という事は単純にここの労働力を増やすという事ではないのだな。」
「ああ、相手国家のデータがこちらに事前にもたらされる、それと自動翻訳機を用意してくれる。
さらに事前に対話する事が出来、会いたくなかったら会わなくて良いそうだ。」
「国家間の交流か、マリアにとってもここは国と捉えられている訳なんだな。」
「交流出来る規模に成長した国家はまだ一か国のみだが今後増えるそうだ。」
「という事は我等が王国は幾つか有る国家の中でもトップクラスの成長度という事か。」
「さぞかしマリアさまも鼻が高いのでは。」
「いや、そういう感覚では無く、ここまでは準備期間でこれからが本番ということ、ゲームでは無く研究だとはっきり言われた。」
「研究か…。」
「私に違和感ないわ、私自身もここでの生活を観察者的な視点で見てきたから。」
「そうか、一花もか。」
「言われてみれば俺だって、特殊な環境で人間がどう行動するものなのか、自分も含めてだが観察してきたな。」
「みんな記憶の方はどうなんだ?」
「プロテクトが掛かってる部分以外は、きっかけが有れば普通に思い出すが。」
「研究の進み具合によって、そのプロテクトも外れるのかしら。」
「ここでの幸せな生活に慣れて来ているから…、今更過去の事はどうでもよくは有るが、俺が何者だったのかを思い出してすっきりしたいとは思うな。」
「マリアから、全員の記憶を少しずつ戻して行くと言われた。」
「キング、本当か、そうなるとこれから大変だぞ。」
「蘇る記憶は楽しくない気がしてるのは私だけじゃないわよね。」
「ああ、それと向き合いながら、国民の態度がどう変化して行くかに気を掛けなければいけなくなる。」
「ここへ来る前高い地位にいたのに今は豚の世話とかだと、精神的に不安定になる者も出て来そうだな。」
「明日、大人全員に話そうと思うがどうだろう。」
「そうだな、事前に分かっていれば覚悟も出来てトラブルを減らせるかもしれない。」
「翻訳機を必要とする人達との交流、記憶のプロテクトが外れる、これからが私達の真価を問われる本番なのだと思う。
今更だが私達は仲間として、どんな記憶が蘇ろうとこれから先も力を合わせて進んで行きたい、子ども達の為にな。」
「そうよね、過去の記憶は子ども達には関係ない、もちろん伝えるべき事で有れば伝えなくてはいけないけど、キングの今の言葉は心に刻んでおくわ。」
「俺達の結束が揺らいだら、全員の不安を増す事にもなる、これを乗り切って王国を盤石なものにしようぜ。」

楽しい記憶ばかりならプロテクトを掛ける必要も無いだろうという事は、以前から話の中で出ていた。
八人全員が親となった今、振り返る事より前に進む事の重要性は皆、理解している。
だが、やはり不安なのは当たり前の事だ。
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29-ファーストコンタクト [キング-03]

マリアからのメッセージを国民に伝えた後、データベースにアクセスする為に使って来た端末に新たな機能が備わっている事を確認した。
子ども達の世話を音楽村の住人に頼んで、城の八人を端末の有る部屋に集める。

「これが相手の国の情報だ。」
「大人は五十六人か、コロニーが一つ少ないのかな…、あっ八名死亡か。」
「ここと同じ様な事が起こったのかしらね。」
「飼育している動物の数、畑の面積など、総じてここより小規模だな。」
「うちに無い物は弓矢…、武器か。」
「俺達、農耕民族に対して狩猟民族なのかな、キング、殺すな、は、彼等に対しても当てはまるよな。」
「ああ、それはマリアに確認した、これを見るとキツネとか…、ハンティングを楽しんでるって事じゃないのか。」
「その発想は無かったな、愛玩動物は出して貰ったが。」
「子どもは二十名か…、子どもが二十人を越したら他国との交流開始とかがルールなのかな。」
「他の国との交流が始まるまで分からないわね。」
「ここのコールって表示は今まで無かった。」
「じゃあ、ご挨拶しますか、キング。」
「皆、良いか?」

その、返事を耳にする前に呼び出し音が鳴り、コロニー26489より呼び出し、と表示された。
応答する、という文字が出たので選択すると、画面には金髪の男性が現れた。
上部には自動翻訳中と表示されている。

『初めまして、私は三八五、こちらのコロニーのリーダーです。』
「初めまして、当方のリーダーでキングと名乗っています。」
『データによると、ずいぶん大きな国なんですね。』
「ええ、管理者に色々お願いした結果です。」
『罰の回数が少なかった成果なんですね、そうと分かっていたら反抗的な人物を早くから押さえつけるべきでした。』
「成程、やはり罰を何度も受けた者は早死にを?」
『はい、自分の老化の原因に気付けなかった可哀そうな人達です。』
「やむをえないですね。」
『はい、ところで、あなた方の国を見せて頂く事は可能でしょうか?』
部屋にいた者達は一様に頷いた。
「大丈夫です、ゲートの設置を確定させます、今回の通過は八名に設定させて頂きますがよろしいですか。」
『はい、配慮有難う御座います。』
「では一時間後という事でどうでしょう。」
『はい。』

ファーストコンタクトは何の問題もなく済んだが。

「そうか俺達は日本人、彼らは…。」
「欧米人との括りでしか分からないないわね。」
「少なくとも敵意は感じなかったが、違う人種と出会って自分達の事を思い出すというのも少し複雑な気分だな。」
「まあ、歓迎の準備を急いでするか。」
「そうね、全国民は城の前に集合って事かしら。」
「急に変な記憶が蘇って喧嘩になる、なんて事がなければ良いけど。」
「しばらくはゲートの前で対話という事にしよう、もし雰囲気が悪くなる様なら、早目に帰って頂くという事でどうだ。」
「ああ、そんな事態になりそうだったらキングは下がっていてくれな、俺が納めるから。」
「有難う、お任せする。」

これから蘇って来る記憶の内容が分からない以上、私達は慎重にならざるを得ない。
かといって、彼等との交流は今後を考えた時、避けては通れない道だ。
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30-過去 [キング-03]

一時間後に新たなゲートから現れた八人は全員白い肌を持ち、髪や目の色の違いから明らかに違う人種と言える。
話し始めて驚いたのは彼等に対してではなく自分に対してと言うか…。

「あっ、キングは普通に話してるけど日本語じゃなく…。」
「普通に英語だね。」
「翻訳機いらないな。」
「セブンもか。」
「何年も使ってなかったし耳にもしなかったのに普通に理解出来る。」
「私はこの言語を学んでいた、御免、成績優秀だったみたい。」
「はは、俺もだ。」
「自分は留学してた…、ちょっとやばいな急速に記憶が…。」
「嫌な事も楽しかった事も…、おい、少しづつじゃないのか。」
「あっ!」
「キングの表情も強張っている。」
「何か説明してる様だが…、頭が。」

面会は事情を説明して短時間で切り上げさせて貰った。
理由は私の記憶が急速に戻って来た事による混乱。
近い内に再度連絡を取るという事で納得して貰った。
仲間達の表情も険しくなっている事を察してかあっさり引き上げてくれた。
激しい頭痛の中、垣間見た国民達は程度の差こそ有れ一様に苦しそう。
それは私達が体験した出来事によるのだろう。
思い出したのは…。
突然始まった戦争、何も分からない内に家族を失った。
それでも、何とか生き残った者達で協力しながら生きていた。
そこを隣人に襲われ仲間を何人も失う。
仲間を亡くした辛さ、やるせなさ。
その後も色々有って、仲間内で生き残ったのは自分だけになる。
絶望。
蘇った記憶の最後は大きな光の塊が自分目がけて飛んで来る所で終わる。
絶望の記憶に脳を支配されそうになった時、目に入ったのは子ども達の姿だった。
親達の異変に困り果て泣いている。
何者かが問う、否、何者かなんかじゃない。
私は誰だ。
その答えは蘇った記憶と共に有る、だがそれは過去の自分。
目の前で泣いている子にとっての自分はキングだ。
そう、今の現実の責任者。
明日を見る事がその役目。

「今を思い出せ! 過去に捕らわれるな! 我々には未来が有る! 子ども達が居る!」

そう叫んでいる自分がいた。
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