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神沢祐樹-167 [高校生会議2-25]

「祐樹くん、取り敢えず本の原稿が完成したから、時間の有る時に目を通してね。」
「早かったですね、沢井さん、無理をしたとかは?」
「全然余裕よ、分担して書いたし祐樹くん達の文章を多く引用しているからね、写真を多目に入れて売り上げに繋げようとも考えて文章は控え目、詳しい話は二冊目以降で良いでしょ。」
「軽めの本なのですね、それで我々の名称はLento Quasi Vivaceに決定ですか?」
「LENTOをイメージしつつチームVivaceに繋がる、分かり易くて良いと思いますよ。」
「では…、本の著者として四人の肩書はLento Quasi Vivaceメンバーとしますか?」
「あっ、私は執筆には参加していないの、チームVivaceの組織編成とかをしていてね。」
「いや、柳井さんと祐樹くん絵美お嬢さまを含めた六人の共著としよう、Lento Quasi Vivaceを世間に認知して貰うきっかけとする事が本を出版する目的だからね。
柳井さんの写真も沢山入れるし、柳井さんならこんな事を思っていそうだと考えながら書いた部分も有るんだ。」
「天野さん、それって少し違う気が…、でも本の目的を考えたら六人の本というのがベストなのかな。」
「異色の六人組男女ユニット、話題性抜群だと思う、そのデビューがLENTO関連本という事だね。」
「片山さん、本の発表まで待たずにテレビデビューという選択肢を考えているのですが如何でしょう。」
「えっ、どういう形で?」
「自分達の目指す所を明確に示しながら、Lento Quasi VivaceやチームVivaceの結成をアピールして良いと思うのです。」
「そうか…、まだ実績ゼロでも…、先に知名度を上げておくのも有りだな。」
「祐樹くん、具体的に何か有るの?」
「LENTOのCD発売に関する取材を六人で受けて、CDの話をほとんどしないとかどうです、世界平和について語るとか。」
「あっ、そうね…、世界平和か…、最近、社会問題と向き合う様なメッセージソングがあまり出て来ないのよ、昔は反戦とか反原発とか有ったのに、まずは、お爺ちゃんに聴かせて貰った曲を、みんなにも聴いて貰える様にするわね。
う~ん、祐樹くんはJohn Lennonのimagineって聴いた事有る?」
「有りますよ、忌野清志郎のも、自分の周りの大人達にはそういうのを聴かせたがる人が多いのです。」
「LENTOが歌ってCD化とかは?」
「自分達の力量では、まだ早いです。」
「でも、私達の方向性を歌で明確に示すのは有りでしょ?」
「そうですね、有名なメッセージソングのカバーは難しいですが…、沢井さん、作詞は如何ですか?」
「オリジナル…、そう来たか…、う~ん…、挑戦してみようかしら、でも作曲は出来ないわよ。」
「それは何とかします、自分達は子ども向け第二集と学生生活を応援する様な曲を考えていまして、そちらを優先したいのです。」
「CDをどんどん出して行くって聞いたけど、そんなに簡単な事なのか?」
「ええ、今の時点で手抜き無しの録音が出来れば、軽く黒字に出来るそうです、地下アイドルと違ってレギュラー番組を持っていますからね。
番組には皆さんも出て頂きたいのですが、放送スケジュールは結構先まで決まっていまして。」
「それで、違う番組を利用か、でも本当ならCDの宣伝をする場なんだろ?」
「それを無視するぐらいで無いとLento Quasi Vivaceの存在感は伝わりませんよ。」
「ああ、そうだな…。」
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神沢祐樹-168 [高校生会議2-25]

「でも、話題は世界平和ではなく、本にまとめた内容だね。」
「世界平和を語るのも面白そうだけどな~。」
「はは、まずはLento Quasi Vivaceのアピール、岩崎の流れを更に発展させようという、祐樹くんの考えを世間に知らしめる必要は有るだろ。」
「LENTOの二人を歌手としか見てない人や美形高校生カップルの面しか知らない人は少なくないでしょうからね。」
「社会的弱者が胸を張って生活出来る社会づくりを前面に出して行けば良いのかな。」
「始めは、もっと視聴者にとって身近な事から入った方が良くない?」
「例えば?」
「物価の秘密とか、ねえ千恵ちゃんは高い物と安い物、どっちを選ぶ?」
「あ~ん、欠伸してたからって振らないで下さいよ~、しかもすごく雑な質問…、うちは高級品志向では有りませんが安い物にはそれなりの理由が有ると教えられて来ました、選択肢があれば、予算の範囲内でそれなりに良い物を選びます。」
「経済力、価値観、コストパフォーマンスの辺りから経済の話をするのか?」
「変に準備しておかないで、ぶっつけ本番で良いと思いますよ、生放送では無いですから編集出来ます。
各自での準備のみにして、打ち合わせなしというスタンスの方が燃えませんか?」
「ああ、有りだな。」
「そうね、意見が対立したらと思うとぞくぞくするわ。」
「そこを常識人の俺がまとめるということか。」
「天野さんが?」
「柳井さん、ここは同意してくれる所だよね。」
「う~ん、想像出来ないかも。」
「はは、目指している所が近いのに安易にまとまらないチーム、それがどんな仕事をして行くのかドキュメンタリーとして面白いですよね。」
「真剣に議論を始めたら一般人には耳なれない用語が出そうだけど。」
「出して下さい、自分も学ばさせて頂きます、視聴者への伝え方は工夫しますので。」
「まあ、大学生でも三人は専門が違うから使い慣れた用語も多少違うだろう、普通の高校生では聴いた事が無い様な言葉は控え目にするよ、どうしても使いたい時は語句の説明をしながらになるかな。」
「片山先生よろしくお願いします。」
「はは、経済関連の基礎は任せてくれな。」
「では、番組の話は進めますね。」
「そうすると、今は岩崎高校生会議との関係を明確にしておくべきかな。」
「そうね…。」
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神沢祐樹-169 [高校生会議2-25]

「単純に、岩崎高校生会議が築き上げてきたシステムを利用して、岩崎高校生会議に刺激を与える組織を作る、という事で良いと思うな。」
「そうですね、シンプルに考えたら天野さんの言われる通りです。」
「という事は、どう利用し、どう刺激を与えて行くかが問題なのかな?」
「利用の方は遥香システムを通せば簡単、刺激は俺達が目立つ活動をするだけ、テレビで言いたい事言って、本を出して、オフィス白川を発展させる、親以上の成果を上げれば目立つだろ。
チームVivaceにも頑張ってもらってね。」
「簡単そうに話してますが、大変ですよね?」
「千恵ちゃんは難しいと思うの?」
「全然分かりません。」
「確かに親以上というのは難しそうね、うちの親に夕べ聞いた話だけど、LENTO関連の利益だけで軽くビルが建つ所まで見えてるのでしょ、祐樹くん。」
「ええ、絵美が作った優しいメロディが大人にも受け入れて貰えた事が大きいです。
大人向けブランドみたいなグッズも、しっかり売れていますよ。」
「絵美お嬢さまの清楚で大人びたイメージの商品が良いのよね~。
歌って踊る、可愛らしい二人の姿とのギャップが良いし。
大学でも流行っていてね、この旅行の話をしてあげたら、力一杯羨ましがられたわ。
天野さん、LENTO抜きでも親達以上の成果出せるの?」
「世の中の人が何を求めているかだよ、そこから色々な可能性が見えている、祐樹くん、企画書が完成したら見てね。」
「はい、楽しみです。」
「でも、祐樹くんの所まで上がって来る企画書の数は少なくないのでしょ?」
「多いですね、ただ、皆さん実績の有る方ばかりですから予算さえ合えば大丈夫なんです、今の所自社ビルを建てる予定は有りませんし。」
「うちの母さんは企画書が通ったって喜んでましたよ、ささやかだけど社会貢献出来そうだとか。」
「柳井さんの企画は収益の見通しが明確、初期投資額が控え目でしたので何の問題も有りませんでした、次の投資に回せる予算が有ると言う事は強みですね。」
「うん、企業として安定しそうだな。」
「はい、当初考えていたのとは全く違う規模になりましたが、見通しは…、そうですねLento Quasi VivaceとチームVivaceのスタートで組織的なアウトラインは完成だと思います。
これから中身を充実させていけば社会貢献出来る企業に成長させられると思っています。」
「あっ、早い段階からLento Quasi Vivaceの様なチームをイメージしていたの?」
「ええ、日本の老化は若い世代の可能性を奪って来た大人達に原因が有った、それを変えて行くのは自分達だと思いませんか?」
「そうね、多くの若い労働力を非正規雇用に追いやった社会、その真逆を進めるのは…、ご老人ではなく私達の世代よね。」
「その代表で有るお二人は、岩崎雄太社長との会食で何を話すのかな?」
「尊敬する大社長に、まずはこれまでのお礼ですね、資本が違うのにグループ企業と同等かそれ以上の援助して頂きましたので。
そして、先ほどの岩崎高校生会議が築き上げてきたシステムを利用して、岩崎高校生会議に刺激を与える組織を作る、という話をさせて頂くつもりです。」
「会食の様子は録画されるの?」
「ええ、ただ、放送出来ない話をカットし編集しての放送となります。
岩崎社長の了解が得られれば編集なしのを皆さんに見て頂く事が可能かも知れません。」
「俺達が会える様な方ではない、我々の代表が大社長とどんな話をするのか、楽しみにしてるよ。」
「はは、真面目な話ばかりとは限りませんよ。」
「そういう話こそ聞きたいわ、岩崎の総帥、その素顔なんて謎だもの。」
「まあ、頑張ってみます。」
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神沢祐樹-170 [高校生会議2-25]

「岩崎社長、今日はお招き下さいまして有難う御座います。」
「いやいや、君達も忙しいだろ、今日は来てくれて嬉しいよ。
しかし、まあ…、素敵なカップルだね、私の周りには美男美女が多いのだが、なあ明香。」
「ふふ、私もLENTOのファンなのですよ、ボランティア社員になりたかったぐらいに。」
「有難う御座います、自分達は岩崎の力をお借りして、でも資本的には違うという微妙な立場です…。」
「そこが良いんだよ、今の岩崎は遥香を始め優秀な人材が多く集まって岩崎王国を固めてくれている、でも安定しているからこそ、イレギュラーな存在が必要なんだよ。」
「はい、小さな存在ですが岩崎高校生会議に少しは刺激を与えられないかと考えています。」
「はは、もう与えてるよ、どうして自分達は祐樹くんのレベルまで踏み込まなかったのだろうと反省してる連中が大勢いるぐらいにね。
金を稼げる我々こそが、幸福度で一番底辺にいる人達に寄り添っていかないとな。」
「自分達の力はまだまだです。」
「うちも動くよ、共に日本を良くして行こう、それでね、君も私の後継候補になって欲しいと考えているのだがどうかな?」
「えっ、岩崎のトップという事ですか?」
「候補者は何人かいて、そこから代表を決めて他が支えるという方向なのだが、何故か君達のファンばかりでね。」
「それは信じられません、遥香さまもおられますし。」
「遥香には今以上の負担を掛けたくないし、彼女自身も岩崎のトップという立場は考えていないのだよ。
オフィス白川は半端なく注目されていてね、社員の大半は岩崎の社員でも有るだろ。
ボランティア社員なんて普通に有り得ないし、本業に差し支えないか気にする役員も居る。」
「ですよね…。」
「それで、しっかり調査した結果が面白くて、君達の歌と踊りは可愛いし。」
「はは…。」
「でも一番のポイントは、私達の考えを更に発展させて社会に影響を与えて行こうという姿勢、それを明確に示しているから多くの人が君の元に集まって来る、そこに自信を持って良いと思うよ。
優秀な後継候補でも、組織の拡大や維持に目が行きがちで、君達が進めている様な所までは考えが至って無かったみたいだ。
さらに言えば君達の年齢からしっかり帝王学を学んで欲しいという事かな。
正直、私の後継という立場は、遥香達が頑張ってくれた事によって、かなり重くなってしまった。
でも、君が後継候補の筆頭という立場で学んでくれれば…、そうだね君を支えたいと思う人のパワーは私の比ではないと思うのだよ。
まだ候補の一人だが、真剣に考えてくれないか。」
「白川社長からも社長と言う立場を学習する機会を頂いています。」
「そうだったね、彼は君を経済界のリーダーに育てたいと話していたが、私も同感だ。
それで、岩崎学園大学なら私の一存で合格に出来る、受験に掛かる時間を経済界について知り体験する時間に当てて貰えないだろうか。」
「岩崎社長にお願いされては断れません、宜しくお願いします、あの、白川絵美は…?」
「共に歩むと決めたのだろ、その邪魔をするつもりはないよ。」
「祐樹くんと絵美さんは良く話し合うの?」
「はい、二人で話し合う事で三つ目の案が出る事も有ります。」
「はは、本当に素敵なカップルなのだね。
これからの活躍、期待してるよ。」
「さて、一番大切な話は済んだから、後はオフィス白川、今後の展開とか教えてくれるかな?」
「はい、社員の子弟から優秀な人材を集める形で…。」
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猫田小夜-01 [化け猫亭-01]

「私は猫田小夜、二十歳の大学生。
二十歳になって、お酒を出す店でのバイトを始めたばかり。
店は叔父が経営する化け猫亭。
三十三歳独身の叔父、いたって常識人なのだが、化け猫亭というネーミングセンスにはついて行けない、苗字が猫田だからと言っても…。
どうして化け猫亭にしたのかは教えてくれない。
今まで話す機会が少なく、私にとって謎の多い人でも有る。
バイトを始める事になったのは、二十歳になり、始めて父に連れて行って貰った時、話の流れで家から近いし短時間で良いからと叔父に誘われた。
父は反対するかと思ったら、むしろ勧めてくれた。
私自身活動の幅を広げたいと考えていたし、父が娘を働かせても問題のない店だと判断しているのなら安心だと考え引き受ける事にした。

さて、店では叔父の事をマスターと呼んでいる…。

「マスター、掃除終わりました。」
「うん、そろそろ店の入り口を開店モードにしてくれるか。」
「はい。」
「店の仕事は覚えた?」
「ええ、五月さんに一通り教えて頂いて、店員としてのスキルは実践で磨けとね。」
「基本はファミレスの店員と似た様な事だからな、違いはお客さんとの会話と風営法関連。」
「風営法か、なんかダンスがどうとかニュースになってたわね。」
「ああ、結構面倒なんだ、古い法律がそのまま残っていたりしてね。
うちはいたって健全なのだが…、その辺りの事は理解出来てる?」
「子どもでは無いわよ、適度に性欲を発散させる店は他に有るのでしょ。」
「うちは、そういう店とは客層が完全に違う、それでも風営法は関係する、ダンスの出来る店に関しての話はどの程度理解してる?」
「そうね、昔に作られた法律が時代の変化を無視して残っているという事は考えさせられたわ。」
「法改正は簡単では無いからな、しかも法解釈は利害によって捻じ曲げられかねない。
法律の条文は見た事有るか?」
「ええ、法学部では無いから多くは無いけど。」
「憲法は?」
「一通り読んだわ、マスターは改憲派、護憲派どっち?」
「まあ、改憲派なのだが…、小夜は昨今の改憲論議、どう考えてる?」
「政治家って馬鹿ばかりなのって思う。」
「はは、手厳しいな。」
「だって、対案を出せずに反対反対、官僚や大臣の不祥事ばかりを話題にしている野党、司法に委ねるべき事を立法府でだらだらやってるでしょ。
与党だって、改憲を目指すのなら、はっきりとした条文案を国民に明示すれば良いじゃない。
明確な案を出しもしない見もしないという状況で改憲に賛成だ反対だと騒いでるなんて馬鹿ばっかでしょ。」
「はは、姪がまともに成長していて安心したよ。」
「あっ、お客さんね…。」
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猫田小夜-02 [化け猫亭-01]

「いらっしゃいませ。」
「あっ、新人の女の子? 可愛いね。」
「姪の小夜です。」
「マスターの姪か…、う~ん、そう言われてみると微妙に似てなくも無いな…。」
「似て無いですよ、まずは何になさいますか?」
「はは、注文は大丈夫だよ、マスターが勝手にやってくれるからね。」
「常連さんなのですね、何時も有難う御座います。」
「マスターは小夜さんの事、なんて呼んでるの?」
「小夜ちゃんです。」
「じゃあ、小夜ちゃん、俺の事は福山雅治と呼んでくれな。」
「どこかの有名人と同姓同名なのですか?」
「いかんなぁ~、突っ込みが弱いよ。」
「福山雅治さんの事はあまり知らないのです。」
「そうか…、それではどんな事に興味が有るんだい?」
「そうですね、やはり生活基盤の安定でしょうか、今は学生なので小さくバイトを始めましたが、早く自立した大人になりたいと考えています。」
「就職を真面目に考えているんだね。」
「そうでもないです、金儲けの道筋が見つけられなかったら就職という道を考えますが、選択肢は少なくないと信じています。」
「へ~、マスター、面白い娘だね。」
「普通の女の子ですよ。」
「普通ね、普通の女の子が金儲けの道筋とか言うかな?」
「職業選択の幅は広いです、大学を卒業したら就職という固定概念に囚われていてはだめですね。」
「そうだったな、俺はまだ修業が足りんなぁ~。」
「小夜ちゃん、福山さんは、雅治ではなく大五郎さんなんだけど、真面目な女子大生に興味が有るんだ、少し教えて上げてくれるか。」
「へ~、男の人ってエッチな話にしか興味が無いのかと思っていました。」
「小夜ちゃん、マスターから聞いて無かったの、この店はそういう話禁止だって、勿論セクハラ行為は厳禁だよ。」
「お酒を出すお店なので、覚悟の上でバイトを始める事にしたのですが。」
「化け猫亭は健全過ぎるくらいな健全を売りにしているんだよ、そして知的な話が出来る場として人気が有るんだ。」
「そうでしたか、バイト初日のお客様方が品の有る方ばかりだったのは偶然で無かったのですね。」
「私も大学生がどんな研究をしているのか興味が有る、色々な学部の学生の話を聴くと視野が広がる気がしてね。」
「そうでしたか、私の専門では無いのですが、オナガサイチョウという鳥がいましてね…。」
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猫田小夜-03 [化け猫亭-01]

「おお~、これがオナガサイチョウか、独特な鳥だね、他にも色んな生物の写真を保存しているの?」
「ふふ、そうですね、次の機会に少しお見せしますよ。」
「それって、毎日通えという事なのかな?」
「いえ、私は週に何度も入りませんので。
それよりも馴染みのないオナガサイチョウの写真をご覧になられて如何でしたか?」
「生物の多様性か…。」
「もし、鳥達が種類を越えてお付き合い出来るとしたらオナガサイチョウはモテなさそうじゃないですか。」
「そう来たか…、でもそれは彼等には関係ないだろ。」
「でしょうね、私の価値基準に過ぎませんので、ただ私に告白して来る男子は人間界に於けるオナガサイチョウみたいな人ばかりなのですよ。」
「恋愛関係の悩みでも?」
「いえ、悩んでいると言う程の事では有りませんが、お客様との会話に恋愛話はどうかと考えてみまして。」
「はは、小夜ちゃんはホントに個性的なんだね。」
「福山さんのその言葉に、喜べば良いのか傷つけば良いのか分からない自分がいます。」
「個性的は褒め言葉だよ。」
「そうですか、とてつもなく駄目駄目な人を傷つけないためにも同じ表現を使いますよね。」
「いや…、それより個性を大切にって話してる高校生が、みんな同じ様に髪を染めて、似た様な服を着ていた事を思い出したな。」
「あっ、逃げましたね、個性的な私に困っていますか?」
「うっ、参ったな…。」
「と、まあ、人間関係の中で理解しずらい人に出会った時、人はどう反応するのかというのが私の研究テーマの一つです。」
「えっ?」
「演技というのも研究テーマの一つなのですが。」
「そ、そうなのか…。」
「こんな話でも、視野が広がる気がします?」
「あ、ああ、面白い、君は何時もそういった研究テーマを意識しているの?」
「そうでも無いです、福山さんが化け猫亭の常連さんと知りましたので、覚えて頂くために少しインパクトの有る手段を考えてみました。」
「はは、しっかり覚えたよ、これからはお手柔らかに頼むね。」
「はい、宜しくお願いします。」

分かり易い人だから、彼が何を考えているかは大体分かる。
福山さんは少々いやらしい目で私を見ていたので、少しだけ私の怖さを味わって頂いた。
私の特技は人に嫌われる事。
近寄らないで欲しいと思う人にはこんな程度で済まさない、私の事が怖くなるレベルまで…。
でも、好かれたい人は考えが読みにくいだけで無く、すでに彼女がいるというのが現実。
正直、恋愛運の無さを感じながら二十歳になってしまったのだ。
容姿を褒められる事は多いのに…。
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猫田小夜-04 [化け猫亭-01]

「ねえ、小夜ちゃんはどう思う?」
「えっ、伊藤さん、何がです?」
「ほら、塀の無い施設から受刑者が逃走してた事件、多くの人が迷惑しただろ。」
「ええ、知ってます、密かに応援してましたが、色々考えさせられましたね。」
「はは、応援してたんだ。」
「中村さんは応援しなかったのですか?
あのまま捕まらなかったら、かなり高い能力の持ち主、でも最後があれでがっかりしました。
窃盗犯でしたか…、犯罪犯して逃げている時と受刑者として逃げる時とでは勝手が違ったのですかね。」
「最後は疲れていたのかもな、小夜ちゃんは色々考えさせられたと話したけど、どんな事を考えてたの?」
「そうですね、殺人を犯した凶悪犯でもないのに追い詰め過ぎて、かえって危険な状態になる可能性や犯人が自殺する可能性。
受刑者の社会復帰を後押しする取り組みが後退しないかは気になりますね。
それと、有罪になった人にはGPS発信機を体内に埋め込み監視するシステム、一定以上の有罪判決が確定した時点で人権は半減で構わないと思いませんか、刑罰の一つとして。
冤罪は運が無かった事にして、凶悪犯は死刑、その執行までに時間を掛け過ぎないとか…。
でも、その前に犯罪を減らす事を目的として、犯罪を犯して捕まり懲役になったらどんな生活が待ってるのか、死刑制度の有る国ですから、それも含めて子ども達にきちんと教える必要が有りますよね。
それが充分ではないから犯罪が後を絶たない…、まあ頭の悪い子は理解出来なかったり、想像力が足りず教えても無駄なのかも知れません。
刑務所が楽しい場所だった場合も意味が無いですね、私はまだ入った事がないので分かりませんが、規則正しい生活、ダイエットを気にしなくて良い食生活、人間関係にさえ気を付けていれば悪くない環境だと考える人はいるかも知れません。」
「はは、ほんとに色々考えてたんだね。」
「中村さんはどの様に考えておられたのですか?」
「まあ、簡単に逃げられる施設の問題とか…。」
「ですよね、芥川龍之介の蜘蛛の糸と、似た様な構図だと思いませんでしたか?」
「あっ、逃げられる環境を作って人を試すって事か…。」
「う~ん、蜘蛛の糸って、話自体が微妙だよな、釈迦ならカンダタの行動ぐらい予測出来ただろ。
もし、後から登って来た罪人達も救われてしまったら、当初の目的とは違うよな。」
「まあ、お話しの世界だからね、塀の無い施設は、真面目に刑期を終える事を前提に社会復帰を考えていて、取り組み自体は悪くないと思うんだ。」
「いっそ島流しってどうですか?」
「泳いで渡れない島か…、社会復帰に繋がるのかな?」
「服役している人で開拓したり畑を耕したり、店の運営なども服役中の人で行い、一つの共同体を形成するのです、無人島を人が普通に住める状態まで開発して行くなんて楽しそうじゃ無いですか。
私はそんな暮らし、絶対嫌ですが。」
「はは、嫌なんだ。」
「刑務官は大変かも知れないけど、塀に囲まれて暮らすよりはうんとまし、普通の社会を作り出せば、刑期を終えた後の社会復帰も容易です…、どこかに良い無人島、無いかしら。」
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猫田小夜-05 [化け猫亭-01]

「小夜ちゃん、昔の島流しは、無人島では無く普通に島民が暮らしている所へ送られていたんだよ。
色々な事情によって、餓死する人がいれば、島の人と結婚した人や仕送りで生活していた人もいたそうだ。」
「島暮らしが楽し過ぎたら刑罰の意味が無いですね。」
「結局、人それぞれという事じゃないのかな、故郷に帰りたい、家族に会いたいと思っても会えないと大きなストレスを感じていた人が居れば、少数派かもだけど、島暮らしを気に入って馴染む人が居たのかも知れない。
今の刑務所だって、老人ホーム代わりに使ってる人がいると聞いたよ。
喰うに困って窃盗を働いた様な人なら、シャバより楽で楽しい場所なのかもな、刑務所は。」
「そういうレベルの人に過疎地の廃村を復活させる作業をして貰うとかどうでしょう、夢が広がりませんか?」
「ふむ。」
「考えてみれば刑務所の運営って税金で賄われているのですよね、だったら重罪を犯した人は島流し、軽微な人は山奥で、それぞれ働いて税金を納めて貰う、税率は犯罪によって変えても良いですね、殺人とかは税率90%、比較的罪の軽い人は一般人の倍とか。
今現在、刑務所での作業報酬がどうなっているのかは知りませんが。」
「どうなんだろう、ちょっと調べてみるよ、水割り頼むね。」
「俺も。」
「はい、少々お待ちください。」

「法務省のサイトによると、受刑者の作業によって得られた収入は国庫に入るみたいだな。
平成27年度の刑務所作業収入は約40億円なんだってさ。」
「その額が多いのか少ないのか良く分からないな。」
「うん…、受刑者には作業報奨金という形で…、えっと…、平成27年度予算における作業報奨金の1人1月当たりの平均計算額は約5,317円…、月額だぞ。」
「懲役だからな。」
「そっか、そうですよね、自分達の食費とかは自分で稼いで貰わないといけませんものね。
でも、約40億円という事は、刑務所全体に掛かる費用の何%ぐらいなのでしょう?」
「え~っと、平成28年3月末日現在、刑務作業は全国77の刑事施設で約48,000人が就業と有るから…、その人数の食費と刑務官の給料とかを考えたら…。」
「良く分からんが、単純に計算して、せいぜい2割か…、いや、それ以下かな。」
「警察、検察、裁判所、刑務所と犯罪者関係で多くの国家予算が使われているよな。」
「そうですよね、そう考えたら40億円なんて微々たる額、無いよりはうんとましだとしても…、それにしても犯罪は減りそうに有りませんね。
犯罪と言っても色々ですが…、社会秩序を乱す行為と捉えれば良いのでしょうか?」
「そうだな、その辺りを法で定め、それに反すると犯罪なのか…。」
「犯罪行為は昔から有って無くならない、という事は人間の本能に犯罪を犯す要素が含まれているという事かしら?」
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猫田小夜-06 [化け猫亭-01]

「そうだな、性犯罪はまさしく本能に正直過ぎる連中が我慢出来なくてというパターンだね。
法に触れるレベルで欲望を満足させている人が少なからず居そうだから、無くなるとは考えにくいかな。」
「殺人になると事情が複雑か…、殺したくなった相手を殺すかどうかは…、カッとなっての犯行は本能的なのかもな。」
「人と人の関係は複雑だから…、計画的殺人は色んな感情が絡み合っていて怖そうですね。」
「確かにドロドロしていそうだ…、そう考えると、楽して金儲けをしたいという感覚は自然だな、俺だってたまに宝くじを買ってしまう、確率の意味はしっかり理解しているのだがね。」
「それを、宝くじでは無く詐欺によって成し遂げようと考えるか、株とか合法的手段によってと考えるかの違いかな。」
「手段を選ぶか選ばないか、という事ですね、法に触れない手段を選ぶ人と、それに拘らない人。
でも、社会規範から逸脱した人でも社会を構成する一員です、一度犯罪を犯したからと言って全員死刑にしていたら人口減少に歯止めが掛からない、再び罪を犯すことなく良い形で社会復帰出来る道筋が出来ればと思うのですが、日本は弱者に厳しい競争社会、色々難しそうですね。」
「そうだな、先日の逃走犯だって模範囚の立場を勝ち取ったから塀の無い施設で残りの刑期を終える筈だった、人間関係が嫌になって逃げたという報道を目にしたが。」
「あっ、再犯関連の記事を目にしたよ、え~と…。
松山刑務所大井造船作業場の脱走事件を受けて、法務省が発表したのだけど、出所後に再び罪を犯して刑務所に戻る率が、全国の刑務所などでは43%なんだってさ、多過ぎるよな。
そして、『塀のない刑務所』と呼ばれる開放的3施設では8~14%となっている。」
「少ないみたいだけど、元々、再び罪を犯さない様な模範囚を対象としているのだから微妙な数字だね、それより43%の方が問題だが。」
「刑務所の居心地が良いのかしら。」
「生活出来なくて仕方なく、という再犯と、そうでは無く…、色々なパターンが想定されて簡単に分析出来ないな。」
「十年ぐらい刑務所内で生活した後、釈放されたとして…。
社会の変化について行けないでしょうし、再就職だってままならない、結局犯罪に手を染めざるを得ないという人は少なく無さそうですね。」
「出所者に仕事を斡旋するにしても、人がやりたがらない様な、きつめの仕事になってしまいそうだな。
小夜ちゃんが受刑者の場として提案した廃村復活とかを出所者の手で出来れば良いのかもしれないが。」
「簡単では無いだろう、基礎教育から始めて…、かなり費用が掛かりそうだし、出所者だって、そんな所で暮らしたくは無いだろう。」
「法務省のサイトでは、刑務作業の目的として、受刑者の矯正及び社会復帰を図ると有ったが…。」
「難しい問題だよな。」
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